花のない花屋

心の隙間できてしまった長崎の親友へ

  

〈依頼人プロフィール〉
大島景子さん(仮名) 40歳 女性
東京都在住
会社員

    ◇

昨年の末に40歳の誕生日を迎えました。仕事の都合で3年前に上京し、ひとりで東京に暮らす私は、「40歳になっちゃった!どうしよう」という不安や焦りでいっぱいでした。

一方、長崎で結婚し、小学校の先生をしている大学時代からの親友は「どうして?」と首をかしげます。「周りには、素敵な40代の独身はたくさんいるよ。好きなことをやって楽しめばいいじゃない」と。

でも、私はどうしてもそう思えません。いろいろな価値観がありますが、私は1人より2人、2人より3人の方がいいと思うのです。私は料理が好きなのですが、自分のためだけに作るよりは、誰かを喜ばせるために作る方が好きなのです。

彼女には私のないものねだりが歯がゆかったようで、ついには「頑固な人には何を言っても伝わらないから、もうこれ以上は言わない」と宣言されてしまいました。ショックでした。

私は親にも兄妹にもほとんど悩みごとは話しません。ただ、大学の音楽科で出会って以来の親友である彼女にだけは22年間、すべてを包み隠さず話してきました。彼女は誰よりも私のことを知ってくれている存在なのです。

東京と長崎という生活環境の違いもあるし、結婚している彼女と独身の私という違いもあります。私たちをとりまくすべてがまったく正反対に進むにつれ、わかってほしいという気持ちをどう伝えたらいいのか、何を伝えたらいいのかがわからなくなってきました。

電話でのやりとりがあったあと、うまく言えなかった気持ちを書いて、彼女にメールを送りました。でもメールだと、同じ言葉でも強く響くことがあります。彼女には私の意図したニュアンスがうまく伝わらず、それがまた彼女を嫌な気分にさせてしまったようです。

3月に彼女の誕生日があり、思い切って電話をしたら、固く絡まった部分が少しだけほどけたような気がしました。それでもまだ、どこか微妙な関係が続いています。

生活環境の違いから価値観が少しずつずれていくことは、きっとこれからもあるのでしょう。でも、彼女がかけがえのない親友であることは一生変わりません。

言葉で伝わるような白黒はっきりしたものではない、こんな微妙な気持ちを東さんのお花で伝えてもらえないでしょうか。いつも心配かけてごめんね、私なりに毎日一生懸命頑張っているから心配しないでね。ずっといい友達でいてねという願いを込めて……。

彼女は一見クールですが、温かくて人に好かれるタイプです。小さな庭にはクリスマスローズやスミレを植えていて、大切に育てています。庭にはミモザがあり、「ミモザの家」と呼ばれるように大きく育てたいと話してくれました。よろしくお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

きっといろいろと微妙な気持ちがあるのでしょうね。「言葉ではうまく言えないけど、花だからこそ伝えられるもの」。それを突き詰めて考えた末に、今回のアレンジができました。

黄色い花の上に乗っているのは、平べったい多肉植物。「これって何だろう?」と持ち上げると、ぱかっと蓋のように取れるんです。その中には黄色いグラデーションの花がぎっしり。黄色は“ミモザの家”をイメージしました。

こういう遊び心のある花を贈られたら、思わず電話しちゃうかな、と思って(笑)。きっと2人に必要なのはコミュニケーション。緊張をほぐしてくれるようなサプライズ的な演出が必要だと思ったのです。

黄色い花はカーネーションやラナンキュラス、エピデンドラム、バラやピンポンマムといったわりと一般的な花。強い個性のある花で構成するよりは、こういう花を組み合わせた方が、気持ちが伝わるような気がしたんです。

花のまわりはヒカゲとドラセナのリーフワーク。緑が美しい季節なのでたくさん入れました。多肉植物は水につけておけば根が生えて育てられます。

この花束ですれ違いが解消し、おふたりの関係が良くなったらいいな。花だからこそ伝えられるものって、やっぱりあるんですよね。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

心の隙間できてしまった長崎の親友へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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