花のない花屋

闘病する母を支えてくれた高1の息子へ

  

〈依頼人プロフィール〉
荻原まなみさん 50歳 女性
東京都在住
会社員

    ◇

14歳の息子に私がガンであるということを告知しました。一昨年の秋のことです。彼はうつむいたまま、ただ一言「わかった」と言い残し、部屋に引っ込んでしまいました。

その日を境に、彼は何も言わず黙々と掃除、洗濯、掃除などをやってくれるようになりました。私は抗がん剤治療、手術、放射線治療の想像を絶する副作用のつらさで、家事はおろか、家族に対して母親らしいことは何一つできなくなってしまいました。

手際も出来も決してよいというわけではないものの、息子が私のことを思って家事をこなしてくれる。その思いがひしひしと伝わってきて、寝室からいつも「ありがとう」のエールを送っていました。

息子は5歳の頃から野球をやっていて、ポジションはピッチャーです。私が闘病していた頃は、ちょうど中学最後の年。大切な夏の大会もあったのに、私は応援に行けませんでした。でも、私が副作用で髪の毛がなくなってしまったときは、彼も丸坊主にしてきて、「一緒だね」と笑わせてくれました。

私は昨年の秋にようやく大きな治療を終え、50回目の誕生日を迎えることができました。そのとき、「お母さん、50歳まで生きていてありがとう」というメッセージを添えた一輪の赤いガーベラが、寝室の机に置いてありました。口数が少なく、思春期真っただ中で、面と向かって話せない息子なりの、母に対する精一杯のねぎらいだったのだと思います。

この春には高校生になりました。今までありがとうという感謝の気持ちを込めて、彼に花束を贈りたいです。

小学校、中学校と野球のチームカラーが菖蒲(しょうぶ)色だったこともあって、息子はいつもどこかに菖蒲色を身につけています。硬派で体育会系の外見とは裏腹に、家の中にある多肉植物に話しかけたり、近所の赤ちゃんにほほえみかけたりする一面もあります。どんな花が似合うのかわかりませんが、彼にふさわしいお花を東さんに作っていただけると幸いです。

  

花束を作った東信さんのコメント

僕もずっと野球少年だったので、読んでいてちょっとうるっときてしまいました。なんてできた息子さん! ちょうど多感な時期で、いろいろとやりたいこともあるはず。なのに、無言でお母さんの手伝いをしているなんてすごいことです。こういう少年のために花を作れるのは、僕にとっても本当にうれしいこと。ぐっと気持ちを込めて作りました。

花の色は、彼のチームの「菖蒲色」でまとめています。まっすぐ伸びているのは、「紫の雲」という菖蒲。下にはライラックやスイートピー、カーネーションを加えました。男の子はごちゃごちゃ花を入れてもわからないので、花はシンプルにして、形状にこだわりました。菖蒲がバッドで、下の丸い部分がボールという見立てです(笑)。リーフワークは野球のグラウンドをイメージしました。

香りがいいので、部屋もぱっと華やぐと思いますよ。菖蒲は水をやっていれば、これから開いてくるはず。

新しい高校生活、頑張って欲しいです。遠くから僕も応援しています。

  

  

  

  
(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

闘病する母を支えてくれた高1の息子へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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