東京の台所

<71>「東京のお母さん」と月1女子会で充電

〈住人プロフィール〉
 会社員(女性)29歳
 賃貸マンション・1K・東京メトロ 丸の内線 新高円寺駅(杉並区)
 入居半年・築10年くらい
 

 兵庫で生まれ、学生時代を大阪で過ごした。そこで日本文化を学ぶ一貫として茶道と出会った。

「お茶は、1日の緩急になっていますね。忙しいときでも、お茶を点(た)てているとほっとしますし、自分を見つめ直すことができます。1人でいただくときは、台所で立って点てますが、自分の生活に欠かせない時間になっています」

 相手を理解するために自分はどうすべきか。お茶の作法は、ビジネスマナーにも採り入れられると、学んでいくうちに気づいた。日本の伝統文化でこんなにすばらしいものがあるのに、敷居の高さなどからまったく触れない人もいるのは残念だなあとも思った。ゆくゆくは、もっと気軽に生活の中にお茶を採り入れる方法を提案する仕事をしたい、と語る。

 今は、フランスの蚤(のみ)の市で買ったカフェオレボウルを使ったり、焼き菓子やスイーツを組み合わせたり、肩ひじ張らない新しい楽しみ方を追求中だ。

 転職のたびに会社に近いところに越している。だから引っ越し貧乏です、と笑う。

「とにかく東京の通勤電車が苦手なんです。あんなにギュウギュウしながら働きに行くって、みんなすごいなあと思う。私は1分でも乗車時間を短くしたいので、会社を替えると家も越しちゃうんです。都心なので家賃も上がりますが、移動中のストレスより家賃が高くて苦しい方を選びます」

 自分なりのあやしかたで生きづらいことの多い東京をのりきっている。そんな彼女には、心強い応援団がいる。

「兵庫時代にご近所だったおばちゃんが再婚して東京に住んでいるんです。ちゃんとごはん食べてる? これ食べなさいってお菓子やレトルトを送ってくれたり、一緒に温泉に行ったり。しょっちゅうメールのやり取りをしてます。東京のお母さんだと思っています。血がつながっていない、本当にただのご近所さんだった人ですけどね。年の離れた私の大切な人です」

 そのおばさんから送られてきたというあめ玉やしょうゆを見せてくれた。互いに東京に住んでいるが、ベースに、世話焼きであったかい関西人のスピリッツが流れている気がした。

 ほかにも支えになっている存在がある。芸術高校時代の同級生だ。

「みんな東京で一人暮らしをしながら、歌手や俳優を目指してがんばっています。今はまだ花咲いていなくても、いつ会ってもキラキラ目が輝いている。ああ私もここでがんばらなくちゃって思います」
  
 居心地がいいのはもちろん生まれ育った関西だ。だが、出会いやチャンスが多いのは間違いなく東京、と言いきる。折れそうになっても、昔の仲間と会うと心の元気が回復する。女の子同士、月1回は会うというが、どんな飲み会になるのだろうか。

「飲むって言うより、喋って食べて。そして必ずみんなで歌い出します、高校時代がそうだったから」

 お茶と歌と東京のお母さんと。三つの元気の素が彼女の東京暮らしを支えているらしい。

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PROFILE

大平一枝

長野県生まれ。失われつつあるが失ってはいけないもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話~紙とヒトをつなぐひそやかな物語』(誠文堂新光社)、 『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『昭和式もめない会話帖』(中央公論新社)ほか。最新刊は『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)。HP「暮らしの柄」。
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<70>どこか浪速っぽい南インドに魅せられて

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<72>父の記憶、母の味、そしてハンバーグ

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