花のない花屋

8年越しで通うヘアサロンの美容師に

  

〈依頼人プロフィール〉
坂本雪さん(仮名) 34歳 女性
大阪府在住
会社員

    ◇

20代後半まで髪形に頓着することがなく、美容院を転々としていました。ほとんど嫌々、行っていたくらいです。でも、今の美容師さんに出会ってから変わりました。

初めてそのヘアサロンへ行ったとき、私は1時間ほど待たされ、「もう帰ろう」と出口に向かった瞬間、「お待たせしました」と声をかけられました。それから今まで8年間、彼女に髪を切ってもらっています。縁とは不思議なものです。

カットが上手というのはもちろんですが、それと同じくらい、彼女の人柄に惹(ひ)かれています。仕事ぶりや会話の端々から美容師という仕事を心から愛し、多くの人に喜んでもらいたいという一途な思いが伝わってきます。

彼女はいつも穏やかな笑顔を浮かべていて、話が上手。年齢は40代前半でしょうか。ストレートに気持ちを表現しますが、“お茶目ボーイッシュ”なので、聞いていると思わず笑ってしまいます。軸がぶれず、誰にでも平等に接するので、そんな人柄に惹かれるお客さんも多いはずです。

読書が好きで興味や関心の幅が広く、アメリカ留学もしています。英語でやりとりしながら外国人の髪をカットすることもあるようです。

髪を切ってもらっている間は、お互いいろんな話をします。話をしていると、必ず仕事や生き方のヒントをもらえて、帰る頃には、穏やかで晴れ晴れした気持ちになっています。私の気持ちを見抜き、心模様を読んでエールを送ってくれる。まるで、私の髪からすべてが伝播(でんぱ)しているのではないかとさえ思えます。

今でも覚えているのは「口角をあげているといいよ」という彼女の言葉。疲れきっていて、表情が硬くなっていたのでしょう。「嫌なことがあっても、口角をあげておけば意外と気持ちが楽になるよ」と言ってくれました。効果はてきめん。今でも忘れられないアドバイスです。

彼女とは普段やりとりをしているわけではなく、月1~2回カットをしてもらうだけ。でも、これまで多くの喜びと力をもらいました。これまでのお礼を込めて、東さんのお花を贈りたいです。

お店は、彼女だけが働いているプライベートサロンです。観葉植物がたくさん飾ってあり、「芽が出るのを見るとうれしくなる」と言っていました。どうぞよろしくお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

きっと素敵な女性なのでしょうね。サロンには観葉植物がたくさん置いてあるとのことだったので、そこに置けるよう、グリーン一色のアレンジにしました。

グリーンとはいえ女性への贈り物なので、浅いライトグリーンです。濃い色目だと硬い雰囲気になってしまいますが、これくらいだと、明るくさわやかな印象になります。

背が高いのはセロームとヤシ。その下に多肉植物やハスの実、ジンジャーなど形のおもしろい植物をちりばめました。それらの間を埋めるように、カーネーションやナデシコ、ジニア、マムなどを差し込んでいます。ヒペリカムの小さな実や、丸いボンボンのようなエリンジウムが、かわいらしさを演出しています。多肉植物は、花が終わったあとも、ぜひ植え替えて楽しんでくださいね。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
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詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

8年越しで通うヘアサロンの美容師に

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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