花のない花屋

究極の選択で私を救ってくれた夫へ

  

〈依頼人プロフィール〉
池本麻里さん 25歳 女性
兵庫県在住
事務職

    ◇

夫と出会ったのは、私が18歳のとき。当時彼は26歳で、すでに働いていました。学生だった私とはすれ違いも多く、月1回しか会えないときも。その上、メールや電話もマメじゃなかったので、私たちは別れたり、よりを戻したりの繰り返しでした。

でも、私の中では最初から「結婚すらならこの人」と決めていました。彼は仕事一筋で真面目。そして心がやさしく、ブレることがなかったのです。

私は、SLEという難病を抱えています。自己免疫が自分自身を攻撃してしまう病気で、私の場合は血液が固まりやすい体質でした。彼はそれを知っても、変わることなく接してくれました。

結婚願望のなかった彼を説き伏せ、昨年、私の誕生日に結婚式をあげました。そして、その数カ月後に赤ちゃんを授かりました。とてもうれしかったのですが、幸せな気持ちは長くは続きませんでした。

病院へ行くと、私の病気では普通の出産はまず無理だと言われ、そのまま入院。絶対安静という日々が始まったのです。

彼は休みもなく働いているのに、毎朝、仕事へ行く前に会いに来てくれました。精神的に弱っていた私にいつも優しく接し、励ましてくれました。

「自分の体をとるか、赤ちゃんをとるか」という最後の決断は、どうしても私にはできませんでした。そのとき彼は、こう言ってくれました。

「麻里は決断しなくていいよ。俺がもう決めているから。麻里が元気でないと意味がないんだ」

彼が子どもを欲しがっていたのを知っていたので、私は涙が止まらず、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。同時に、「彼のためにも毎日笑っていよう」と決めました。

彼は、私が少しへこんでいるように見えると、仕事帰りによく花束を買ってきてくれます。小柄な私に合わせたのか、小さな小花やヒマワリのブーケを選ぶことが多いです。そんな彼に、今度は私から感謝の気持ちを込めてお花を贈りたいです。

彼はアパレル関係の会社で買い付けをしていて、将来は「自分の店を持ちたい」と言っています。見かけはクマみたいで、第一印象は「怖い人」と思われることが多いですが、優しくてみんなから好かれるキャラです。私の中での彼の色は“レインボーカラー”。植物好きで、部屋には多肉植物やエアプランツ、観葉植物、お花がいつも飾ってあります。「ありがとう」を伝えられるお花を作ってもらえたら幸せです。

  

花束を作った東信さんのコメント

彼のイメージカラーという“レインボー”でまとめました。全部で20種類近くの植物を使っています。

アクセントになっているのは、トップにおいたエアプランツ、ディッキアと食虫植物のウツボカズラ。その下に花の形をした多肉植物やカラー、花火のようなピンクッション、ベルベットのようなケイトウ、プロテアなど、形や質感の違うさまざまな花を入れました。

池本さんのイメージという小花やヒマワリも加えています。リーフワークは、ピットという葉を使いました。くるくると動きのある形状なので、外へ広がっていくようなボリュームを出すことができます。

原色系の花は女性向けのことが多いですが、男性へのプレゼントということで、強めの“カラフル”アレンジにしました。暑い時期の花は、どこか色も濃く、強いですよね。季節感を出しながら、ハッピーな気分になってもらえるようにと考えました。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

究極の選択で私を救ってくれた夫へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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