ファッショニスタの逸品

心揺さぶる色や絵柄を 鈴木マサルさん

鈴木マサルさん(撮影 石塚定人)


鈴木マサルさん(撮影 石塚定人)

商業ビルが立ち並ぶ渋谷の喧噪から少し外れたところに、ガラス張りの小さな店がある。通りからは、色鮮やかな柄のテキスタイルが壁に飾られている様子がうかがえる。

テキスタイルデザイナーの鈴木マサルさんは2005年から、アトリエが併設されたこの場所で、自らデザインしたハンカチやバッグ、カーテンやクッションのテキスタイルなどを販売している。

  

2010年、世界的なテキスタイルブランドであるフィンランドの〈マリメッコ〉で、日本人では3人目となるデザイナーに起用され、一躍注目を集めた。ムーミンの原作者トーベ・ヤンソンの姪に、ムーミンの柄をあしらったコラボ商品の企画を現地まで出向いてプレゼン。その熱意が通じ、2012年には「MOOMIN TRIBUTE WORKS」というシリーズで商品展開をスタートさせた。ここ数年は、国内の仕事と並行して、フィンランドなど北欧との仕事もこなし、年2、3回は現地を訪れている。

  

鈴木さんがテキスタイルの世界に魅せられたのは大学時代。グラフィックデザイナーにあこがれて美大を目指したが、染織デザイン科という伝統工芸の学科に入学することに。当初は夢と現実の狭間で悩むこともあったという。そんな時、当時唯一の日本人のマリメッコのデザイナーとして知られていた石本藤雄さんの個展を銀座で見た。

「人生ではじめてマリメッコの実物を見ましたが、大学で学ぶテキスタイルの世界とは全然違いました。かっこいいなあと思いましたね」

  

そして、次第にテキスタイルへの関心も高まっていた大学3年の頃、日本のテキスタイルデザインのパイオニアである粟辻博さんの授業を専攻することに。ここで迷いは一気に吹っ切れたという。

  

「もうデザイナーとしてのマインドは、すべて粟辻先生から教わったと言ってもいいくらい影響されました。僕にとってはいまだに大きな存在です」

  

「もうデザイナーとしてのマインドは、すべて粟辻先生から教わったと言ってもいいくらい影響されました。僕にとってはいまだに大きな存在です」

大学卒業後は粟辻さんのデザイン事務所で勤務。3年半が過ぎた1995年、粟辻さんが急逝したことを機に独立。以来20年近く、鈴木さんはテキスタイルという分野でデザイン活動を続けている。
彼が生み出す独特なデザインの世界観や、北欧デザインの魅力についてうかがった。

  

マリメッコのシャツを愛用

――北欧のどんなところに惹かれますか。
 北欧の中でもとくにフィンランドには、年に2、3回ペースで行くのですが、彼らはすごくシャイで、仕事でもプライベートでも奥ゆかしいところがあるなと思います。そのマインドが、僕にはすごく合っているんです。人付き合いがしやすいですし、どこか日本人と似ている気がします。

――生活習慣でも日本と似た部分がありますね。
 確かに、彼らは家の中で靴を脱ぐし、居住空間もそれほど大きくないですね。時間の約束も守りますし、どこかライフスタイルも日本人に近いものがあるのかもしれません。

――日本人は「北欧デザイン」が好きですよね。
 平面的でシンプルなものをもともと日本人は好みます。そういう部分で北欧のデザイン性に共感しているのかもしれません。最近は韓国や台湾でも、いわゆる「北欧デザイン」の家具や生活雑貨がブームと聞きます。東アジアの人々の心をくすぐる何かが、そこにはあるのかもしれませんね。

――ただ、シンプルでミニマムな北欧デザインの系譜と、〈マリメッコ〉のそれとはどこか異質な感じがします。
 〈マリメッコ〉のいわゆる大柄で派手なデザインは、いまから60年前に突然変異的に誕生したものです。紐解いていけば、ウォーホル等、一連のポップアートも含めた世界的な傾向でもあったように思います。昔ながらのフィンランドや北欧のスタイルとは少し違うわけです。

――時代背景とも関係しているんですね。
 フィンランドは、ロシアやスウェーデンに抑圧された歴史があります。なので、言い方は悪いですが、文化的にはちょっと貧相なものが多い。ただ、中央ヨーロッパのような貴族文化がなかった分、バウハウス以降のモダンデザインが一気に広まりました。そういうシンプルなデザインには、「マリメッコ」のようなポップな柄が映えたのかもしれませんね。

――今日、着ているのも〈マリメッコ〉ですね。
 約60年前から作られている〈マリメッコ〉の定番シャツですが、いまでも同じものをずっと作り続けているマインドが好きですね。「広く知らしめること、それが何よりも大事」というマリメッコの創設者の言葉がありますが、僕はそれが大好きです。デザイナーは色や柄に究極にこだわって作りますが、結果的には多くの人に愛されないとダメなんですよね。

――日本の居住空間にはどんなテキスタイルが合いますか。
 もともと日本はカーテンではなく障子の文化です。基本、窓などを装飾することはあまりしてきませんでした。だからカーテンというと無地なんです。もちろん、日本の居住空間に大柄で派手なテキスタイルを飾っても部屋が狭く見えてしまう。ただ、だからといって無地だけというのも味気ないですよね。たとえば壁にファブリックパネルを飾ったり、華やかな柄のクッションを置いたりするだけで、空間はがらりと変わるし、気持ちも豊かになります。

――海外の人から見ると、やはり鈴木さんの作品は「日本的」なのでしょうか。
 そうみたいですね。でも、僕にはそれが全然分からないんです。以前、羊の柄のブランケットを作りました。体が横向きで、顔だけが正面を向いているという構図だったんですが、それって別に普通じゃないですか。でもフィンランドの人に「この構図は何だ!?」と驚かれました。体が横を向いているのなら、顔も横だと。彼らにしてみたら、かなり斬新だったようです。

――いろいろな解釈ができるのも、テキスタイルデザインの魅力ですね。
 僕にとってのデザインの完成型は、裁断される前ですが、ユーザーにわたってクッションになったり、服になったりして完成型が変わるというあいまいさも、テキスタイルの魅力だと思います。

――鈴木さんのファッション観についてお聞かせください。
 基本的にファッションにあまり自信がないから、着る服は出来れば同じものをずっと着ていたいという願望が強いです。〈マリメッコ〉のシャツや白シャツ、デニムとかがほとんど。色はカラフルなものが好きなので、黒シャツなど、気分が暗くなるような服はあまり着ません。服はフィンランドへの出張の際、空いた時間を利用して買いに行くことが多いです。

――オフの時間はどのように過ごしていますか。
 空いた時間にどこかへ出掛けることは少ないですね。それこそ、映画も美術館も行かないほうだと思います。どちらかというと、空いた時間があったら仕事をしていたい。今の時代、普通に生活しているだけでさまざまな情報が入ってきてしまいます。僕はむしろ、あまりそういう情報に影響されたくないって思っているんでしょうね。

――今後、ご自身のデザインに変化はあると思いますか。
 どうなんでしょうね。昔に比べて絵がうまくなってきたなあとは思いますが、作風自体は変わってない気がします。でも、「今後絶対に変わりません」なんて言うつもりはないです。もし今までやってきたことがゼロになるくらいの変化が訪れることがあれば、それはそれで興味があります。

 ただ、カラフルな色や絵柄が、人々の感性に与える影響はとても大きいものだという思いがずっとあります。服やインテリアを通して、多くの人にその魅力を知ってほしいという気持ちは変わりませんね。
(文 宮下 哲)

鈴木マサル(すずき・まさる)
多摩美術大学染織デザイン科卒業後、粟辻博デザイン室に勤務。1995年に独立、2002年に有限会社ウンピアット設立。2005年からファブリックブランドOTTAIPNU(オッタイピイヌ)を主宰。2010年からフィンランドのテキスタイルブランド〈marimekko(マリメッコ)〉のデザインを手掛ける。国内外の様々なブランドのプロジェクトにかかわっている。東京造形大学准教授。
http://ottaipnu.com

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