花のない花屋

自分らしさに悩む花屋の女友達へ

  

〈依頼人プロフィール〉
新田大航さん 31歳 男性
東京都在住
会社員

    ◇

彼女と出会ったのは、新卒で入社した花の会社でした。たまたま同じ店に配属になり、同じ4月生まれということがわかってから、急速に仲良くなりました。

とても気が合い、お互い「ずっと前から友達でいたような気がする」と思ったほどです。平日は深夜まで働き、週末もウエディングの仕事が入ることがあり、とても辛い職場でしたが、頑張ることができたのは彼女のお陰でした。

仕事のあとは毎日のように終電までスタバで語り合い、不満も喜びも共有していました。そんなかけがえのない友達がいたから、仕事に対していつも全力で向かっていけたのだと思います。

私はわけあって2年前に花の世界を離れましたが、彼女は今でも花の現場で頑張っています。そんな彼女に東さんの花を贈りたいと思ったのは、彼女の一言がきっかけでした。
「私の作る花って、クライアントのイメージを形にしているだけで、本当の自分らしさが見つけられない」

毎日、お客さんの望みに合わせて花を作り続ける中で、もともとはどんなアレンジが好きで、どんなものを作りたかったのか、わからなくなってしまったのでしょう。「自分らしさってどこにあるのかな」と悩んでいました。

モノ作りの世界で自分らしさを求めるのは難しい作業です。考えれば考えるほど、自分ってなんだろうという根源的な疑問にぶつかってしまいます。だから、私は東さんの花に触れて欲しいと思ったのです。

そして、いつか私は彼女と一緒にアトリエを作りたいと思っています。ここまで感性を共有できる人はなかなかいません。その夢を叶えるために、今は違う場所で働く私から彼女へ、エールを込めて東さんの花を贈りたいです。

花が好き。花って美しいな。そんな、花の世界に飛び込んだときの気持ちを思い出すきっかけになるような花を作ってもらえないでしょうか。

キラキラした彼女は青や紫が大好きですが、濃いピンクや黄色も似合ってしまう華やかさがあります。花はグロリオサが好きと昔から言っています。よろしくお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

モノを作るなかで壁にぶち当たるのは当たり前のこと。お友達も一生懸命頑張っているのでしょうね。

でも、ひとつだけ忘れてはならないのは、花屋の仕事はお客さんの依頼ありき、ということ。クライアントのイメージを形にするなかにこそ、クリエーションがあります。自分らしさは探すものではなく、相手に喜んでもらおうとするなかで生まれてくるものなのかもしれません。

花のことなのでつい熱が入ってしまいましたが(笑)、お友達が好きというグロリオサをメインにアレンジしてみました。奥には、紫やピンクの菊やオールドローズ、セダム、ガーベラ、ケイトウなどが隠れています。どれも秋ならではの花です。

赤と紫はふだん合わせない色ですが、グロリオサの黄色と、ところどこにあるグリーンがこの2色をつなぎ全体をなじませてくれました。

グロリオサは枯れた姿も美しいんですよ。枯れ始めたら、奥に隠れている花が今よりもぐっと前に出てきて、違った美しさを楽しめます。

この「花のない花屋」も、みなさんの依頼があるからこそ新しいアレンジが生まれています。僕は自分の作品を作ることもありますが、基本は花屋。ゼロから生み出しているわけではありません。人の気持ちを花で形にしているだけ。そのなかで技術を磨くのです。頑張ってくださいね!

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

自分らしさに悩む花屋の女友達へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


故郷・沖縄を離れて歌い続ける妹へ

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