花のない花屋

20年以上続く女友達のスタートに

  

〈依頼人プロフィール〉
鈴木凪子さん(仮名) 43歳 女性
東京都在住
フリーライター

    ◇

最初に彼女に会ったのは20年以上前のこと。新卒で勤めていた出版社の同僚でした。私は編集、彼女は経理と部署は違いましたが、2人ともお酒が大好きで仲良くなり、月に1度は18時に会社を出て飲み屋に直行。食事を楽しみながら、仕事や恋愛、家族、政治、そして将来について語り合いました。

一度、恵比寿の焼き鳥屋で飲んでいると、カウンターの隣にいたおじさんが私たちの熱い話に聴き入っていたらしく、あとから店主を通じてペーパーナプキンに書かれたメモを渡されたことも。「君たちみたいな若い女性がこんなにいろんなことに関心があって、日々一生懸命生きていることに心から感動した」と書かれていました。

2人とも6年ほどでその会社を離れましたが、お互い独身の気軽さもあり、辞めた後も頻繁に会っています。仕事だけでなく、家族観、恋愛観、人生観でも影響を受けました。私が30代になってロンドンへ2年間の語学留学をしたのは、カナダの大学に留学したことのある彼女が背中を押してくれたからでした。

その彼女がこの夏、子宮摘出手術を受けました。うちにご飯を食べにきたときに「じつは……」と切り出され、「まさか40代で」とショックでした。

手術は無事に終わり、お見舞いに行くと、「開いてみたらわかったんだけど、一部ガン化してたの。なので、卵巣とリンパ節の一部も取ることになっちゃったんだ」。返す言葉の出ない私に、彼女は笑顔を見せました。「手術を受けてよかった。5年後の生存率は98%なんだよ」。きっと大きな不安や葛藤があったのだと思いますが、こんなときでも友人を思いやる彼女の強さに心を打たれました。

今は仕事にも復帰し、前向きに頑張っています。そんな彼女に「新しい人生のスタート」を祝福するようなお花を作っていただけないでしょうか。

彼女は私より1歳年下の42歳。背が高く凛とした女性です。初対面の人には「高嶺(たかね)の花」的な雰囲気ですが、親しい友人の前ではすごく可愛くなる面も持っています。淡い色よりも、はっきりとした色合いが似合う気がします。どうぞよろしくお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

大きな手術で大変でしたね。無事復帰されたとのこと、おめでとうございます。彼女は“高嶺の花”のような女性とのことなので、“高嶺”であり“高値”でもある(笑)、ランをふんだんに使ってアレンジをしました。

全部で20種類くらいのランを使い、カラフルでありながら、大人っぽくまとめています。同じ種類の花なので、のっぺりしないよう、柄がはいっているものや、大きさの違うものなどを組み合わせました。白やグリーンも加え、軽やかさも演出。香りもとてもいいんですよ。

中心に差したのはアロエ。もう少しすると花も咲くはずです。植え替えることもできるので、長く楽しんでみてください。花の持つパワーを受け取ってもらえたらうれしいです。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

     ◇

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

20年以上続く女友達のスタートに

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

facebook

instagram

http://azumamakoto.com/

PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


滋賀の寺で副住職をする花好きの彼に

一覧へ戻る

リストが流れる中、夫を見送った叔母へ

RECOMMENDおすすめの記事