book cafe

<5>下町商店街で「運命の1冊」を注文する

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 入口脇にある黒板に描かれた「おすすめメニュー」を横目でちらりと確認しつつ、大きなガラスがはめ込まれた、ワインレッドのドアを開ける。

 店内には1人でパソコンに向かう男性、小さな子どもを連れたファミリー、シニア世代の女性2人……。世代を問わず、誰もが適度な距離感で居心地よく過ごせる空間が広がっている。

 武蔵小山にある「HEIMAT CAFE」は、下町の商店街に突如として現れた、ヨーロッパのカフェのような店。それもそのはず。オーナーの石渡彩恵さん(38)が、ドイツ・ケルンの友人を訪ねがてら、ドイツ、ベルギー、オランダを旅した時に、街中で見たカフェをこの地で再現したからだ。

「ヨーロッパの街角には手書きのメニュー黒板を入口に置いたカフェがあちこちにありました。そのひとつに入ったら“ブックレストラン”で、いろんなものが食べられるだけでなく、自由に本が読めて、大きなテーブルでイベントが開かれていて、いろんな人が集まっていて。いいな、と思ったんです」

 店の内装を手掛けるデザイナーに、旅先で撮ったカフェの写真を見せてイメージを伝えた。雑誌が平置きできる棚を備えた1人客の大きなテーブルも、オランダ・ロッテルダムのカフェで見かけたものを再現してもらった。壁に作り付けた本棚も、よく見るとアンティークの本棚のように細かい彫刻の細工が施されている。店内のテーブルも古い感じを出すべく、自分たちで加工し、塗装し直した。

 常時約1千冊あるという本棚は、学芸大学にある5坪の本屋「SUNNY BOY BOOKS」を営む高橋和也さん(28)が棚作りを担当している。

 本棚のテーマは“心の郷愁”。絵本や小説、写真集、料理本、美術書など、どこか懐かしさやほっとする感じに浸れる。店内閲覧用と販売用のコーナーがあり、毎月第4金曜日の夕方からは、本の入れ替えを兼ねて、店頭でガレージセールも開催している。たまに本棚だけ見て、カフェを利用しない人もいるが、それも自由にまかせている。

 充実のフードメニューに、12月から新しく“本のメニュー”が加わった。タイトルは「ハイマットから始まる本の物語」。店名の「ハ」「イ」「マ」「ツ」「ト」から書き出された一文だけが綴られており、いずれかを選んで注文すると、コーヒー(別料金)とともに、カバーにくるまれた1冊の本が運ばれてくる。どんな本が運ばれてくるのか、手に取るまでわからない。

「今までに読んだことのある本や、全く興味のない本が運ばれてくる可能性もあります。でも、物語はどこからでも繋がっているものだし、考えようによっては、今が読むべきタイミングなのかも。そんな偶然を楽しんでもらえれば」(高橋さん)

 店名の「HEIMAT」とは、ドイツ語で故郷を意味する。ケルンの友人が「ドイツ人が一番好きな言葉」と教えてくれた。香り高いコーヒーとともに、心の故郷になるような“運命の1冊”と出会えるかもしれない。

(次回は12月18日に掲載する予定です)

■オススメの3冊

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『のんべえ春秋 4』(木村半次郎商店)
文筆家の木村衣有子さんが執筆、編集、写真を一人で手掛け、不定期で刊行しているリトルプレスの本。4冊目となる本書の特集は「酒器酒器大好き 酔う徳利 アトリエ七緒」。「木村さん目線で見た、お酒にまつわる小さな本です。切り口いろいろで味わい深いですよ」(※同店で販売中)

『食卓のつぶやき』(朝日新聞社/絶版)
食通で知られた池波正太郎の食エッセイ。「日本や海外に行った時、ふらりと入った店のことや、うまいものに関することが綴られていて、身近な食の楽しみが感じられます」(※同店で閲覧のみ)

『おいしい日常』(新潮社)
エッセイスト・平松洋子さんが綴った、おいしいごはんのために手間を惜しまず、日々培った、とっておきの食の楽しみと知恵を大公開。「日常の美味しさってなんだろう、ということをつい考えてしまう一冊です」(※同店で閲覧のみ)

(写真 石野明子)

    ◇

HEIMAT CAFE(閉店)
東京都目黒区目黒本町3-5-6

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

<4>中央線の客が創る「ソーシャルな茶室」

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<6>飯沢耕太郎所蔵の写真集5千冊が並ぶ食堂

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