花のない花屋

花の仕事をきちんとあきらめられるように

  

〈依頼人プロフィール〉
松田百合子さん(仮名) 42歳 女性
神奈川県在住
会社員

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花は私の一部です。10代から30代にかけて、ほとんどの時間とお金を注ぎ込んできました。

高校生の頃に花が好きになり、近所の生け花教室に行き始めたのが始まりです。短大に入ってからは、アルバイト先のレストランで花を飾るデコレーターに出会い、フラワーデザインのスクールへ通うようになりました。

卒業後は、そのデコレーターさんの紹介で花屋さんに就職。1年半ほど経ったときに、プロのためのデモンストレーションがあり、たまたまフランス人のフラワーデザイナーの作品を目にして衝撃を受けました。「この人に習いたい!」と思い、20代前半で仕事を辞めてフランスへ渡りました。

短大時代に第2外国語で習ったカタコトのフランス語で交渉し、彼の家に住み込ませてもらい、半年間レッスンを受けました。世界中から生徒が受講に来る彼のレッスンはとても面白く、刺激的な毎日でした。

帰国してからは、フリーランスとして結婚式やイベントなどでアレンジしたり、ホテル内の花屋さんに就職して仕事をしたりと、花どっぷりの日々を過ごしてきました。

異変があったのは30歳を過ぎたときです。手や関節が少しおかしいなと思っていたら、リュウマチにかかっていたのです。花屋は力仕事。すぐにドクターストップがかかりました。
それでも大好きな花をあきらめきれず、無理をして仕事を続けていると、病状が悪化。入退院を繰り返すことになってしまいました。そのうち手に力が入らなくなり、細かい作業もできなくなりました。「これ以上続けていたらまわりに迷惑をかける」と思い、37歳で花の仕事から身を引きました。

その後は、「やりたい」仕事ではなく、「できる」仕事を転々としています。事務や接客の仕事です。もう何年も経ちますが、一生懸命になれるものが見つかりません。日々、人生を浪費しているようにさえ感じます。

戻れないのがわかっているけど、やっぱり戻りたい。一度あきらめたはずなのに、未だに前に進めないでいる私が違うステージへ進めるような花束を作っていただけないでしょうか。

  

花束を作った東信さんのコメント

とても大変な思いをなさったのですね。この花束は、前向きに頑張って欲しいという僕からのメッセージです。

花束のメインはチューリップと2種類のヒヤシンスの球根にしました。しばらくアレンジを楽しんだら、水に浸けたり、土に植えかえて育てられます。来年の2月頃には素敵な花が咲くはずです。

球根のまわりには、白い小花のフウランやシキミア、ゼンマイなどみずみずしいイメージの植物を加えました。トップに差したのはスイセン、リーフワークはミスカンサスの葉です。

花は、たとえ仕事にならなくても、一生楽しめるもの。どうか前を向き、進んでいってくださいね。応援しています。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>「花のない花屋」まとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

花の仕事をきちんとあきらめられるように

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


姉のような職場の上司に感謝とエールを

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