花のない花屋

迷いの中でもがく高校生の息子へ

  

〈依頼人プロフィール〉
木崎倫子さん(仮名) 42歳 女性
東京都在住
会社員

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先日、夜中に試験勉強をしている息子の部屋をのぞくと、ぽろぽろと涙を流していました。高校生の彼は、今後の進路のことなどで悩みがあるようです。「クラブ、辞めようと思う。大学の学部もどこでもいい」と言います。

正直、心の弱い、情けない息子だなあと思いましたが、彼には彼なりに思うところがあるのでしょう。でも、それがいったい何なのかはわかりません。こんなとき、男親が近くにいればと思いましたが、主人は単身赴任中。私も朝から夜まで働き、息子と顔を合わせるのも1日に15分か20分ほどしかありません。

息子は、小中学校は国立の付属へ通い、高校受験で別の付属へ移りました。アメフト部に入り、毎日クタクタになって帰ってきますが、進学先も決まっているので、「そんなに心配はいらないね」と他人からは言われます。でも、実際は学内進級の勉強で大変そうです。

思春期の男の子なので、あまり自分のことは話しません。友人関係のトラブルではなさそうですが、スポーツでも勉強でもまわりにできる子が多く、何をやっても一番になれない、というコンプレックスがあるのかもしれません。

今私がしてあげられることはあまりありませんが、「ちゃんと見守っているよ」という気持ちを伝えるために、息子に花を贈りたいです。どんな花が好きなのかはわかりませんが、美しいものは好きみたいです。小学校5年生くらいのとき、私は花を習っていて、家に花を飾ると「きれいだね」と反応してくれました。男の子でもそんなことを言うんだ!とびっくりしたのを覚えています。

夜、家に帰ってきても、息子はひとりなので、せめて彼を迎え入れる「息吹」のような花があったら……。よろしくお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

息子さんは「自分にはどこもいいところがない」と思い込んでいるのかもしれませんね。でも、きっとこれから花が咲くはず。そんな思いを込めて、つぼみの花だけを集めてアレンジしました。

まっすぐ上へ上へと伸びていくイメージで、高低差をつけて縦のラインを強調しています。下の方にはユリを、上の方にはフリージア、ゼンマイ、クリスマスローズ、シキミアの実、グロリオサ、フェチダスなどを入れました。リーフワークは、白い斑の入ったジャイアントピットという葉です。やわらかい雰囲気に仕上げました。

全体的にグリーンと白でまとめましたが、ポピーは咲いてみないと何色かわかりません。1週間ほどですべての花が咲くと思いますが、そうしたら大きくイメージが変わるはず。つぼみとお花、両方を楽しんでくださいね。

世界にはいろいろな人が集まっていて、みんな個性があります。だから、お花もいろいろなものを入れたんです。息子さんも、これからぐんぐん伸びて、美しい花を咲かせるはずです。がんばってくださいね!

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

迷いの中でもがく高校生の息子へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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