花のない花屋

結婚式に来てもらえない大好きな祖母に

  

〈依頼人プロフィール〉
梅津美歩さん 28歳 女性
栃木県在住
会社員

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大好きなおばあちゃんは、私が物心ついた頃からしつけが厳しい人でした。「足を投げ出して座らない」といった所作に関してだけでなく、親戚が集まるときは、「女の子はお手伝いしなさい」とか、「いつも一歩さがって控えめにしなさい」などと言われてきました。

遠くに住んでいたので、会えるのはお盆休みや年末年始など限られていましたが、会えば「花嫁姿を見たいわ」と、そればかり。誰よりも私の結婚式を楽しみにしていました。
そんなおばあちゃんは今94歳ですが、数年前から認知症が進み、この1年で一気に進行してしまいました。昨年、私の結婚が決まり、前撮りした写真を持って報告にいったのですが、おばあちゃんの反応は「あら、きれいな人ねえ」と……。もう、私のことがわからなくなっていたのです。

結婚式は3月に挙げる予定で、おばあちゃんが来やすいようにホテルの会場をとっていたのですが、出席してもらえそうにありません。一番みてもらいたかった人なのに……。
式は中止にしようと何度も思いました。でもその度に、「花嫁姿が見たいわ」といっていたおばあちゃんの顔が浮かび、踏みとどまりました。今の私があるのはおばあちゃんのお陰です。私のことが誰だかわからなくても、結婚式を前に感謝の気持ちをお花で伝えたいです。

おばあちゃんの家の庭には、夏になるとヒマワリが咲いていました。いつも笑顔で、まさにヒマワリのような明るい花が似合う女性です。1年ほど前に会いに行ったとき、マリーゴールドとマーガレットをかたどった手作りのキャンドルをあげましたが、それが、私を認識できた最後となりました。

どんなものでも気持ちが明るくなるような、生き生きした花束を作ってもらえたらうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

イエローのアレンジで、明るくいきいきしたおばあさまのイメージをストレートに表現しました。「ヒマワリのような明るい花が似合う」ということだったので、小さなヒマワリや、エピソードにあったマリーゴールド、マーガレットの代わりとしてガーベラも入れています。

ほかには、香りの良いフリージアや水仙、ラナンキュラス、カーネーション、ピンポンマム、花びらの形が面白いチューリップ、小花がかわいいエピデントラムなどを使いました。一色のグラデーションだからこそ、質感や濃淡を楽しめるよう、さまざまなものを混ぜたんです。

リーフワークは観葉植物のポリポジューム。明るいグリーンで、ガーデンのような雰囲気にしました。

黄色には人を元気にする力があります。この花を見て、一瞬でも華やいだ気持ちになってもらえたら。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

結婚式に来てもらえない大好きな祖母に

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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