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<10>音楽家夫妻から受け継いだ古民家で

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 JR西荻窪駅南口からしばらく歩くと、閑静な住宅街に溶け込むようにして建つ築80年の古民家がある。ギャラリー&ブックカフェ「松庵文庫」だ。

 かつて音楽家夫妻が暮らしていた1階の音楽室にはグランドピアノが置かれ、教え子たちが足しげく通っていたという。夫が亡くなると、子どもがいないこともあって妻は家を手放すことにした。

 近くに住んでいた岡崎友美さん(38)はあるとき、内見できると知り、興味本位で足を運んだ。この古民家のことがずっと気になっていた。買い手がつけばやがて取り壊され、代わりに数軒の建売住宅が建つのだろう。
「残せるものなら残したい」

 岡崎さんは夫にも相談し、1週間悩んだ末に、この家を受け継ぐことに決めた。

 かつて海外添乗員をしていたとき、渡航先のイタリア・シエナで見た、古くから残る街並みが記憶に残っていた。

「こんなにも古いものなのに、なんて素敵なんだろうと思いました。ヨーロッパって時間の熟成の仕方が素晴らしいですよね」

 当初はシェアハウスにしようかと思っていたが、紆余曲折(うよきょくせつ)の末、「この空間を好きだと思ってくれる人とシェアしたい」と考えるようになった。店舗運営の経験はゼロ。それでもこの空間を守りたい、という一心だった。

 店名の「文庫」には、“まなびの場”という意味を込めた。本が知恵の宝庫であるように、人もまた知恵の宝庫だと考えたからだ。

 オープンは2013年7月。1階のカフェスペースでは、季節の素材を生かす料理家・薫さんによるランチやスイーツが味わえる。店内には地元・西荻窪にある旅の本屋さんが選んだものをはじめ、新旧さまざまな本が並ぶ。

「ブックカフェにしたのは、自分がここでコーヒーを飲みながら本を読めたらいいな、と思ったからなんです」

  いまや、近所の住民が集い、さまざまなギャラリーやワークショップでにぎわう場になった。「この空間をシェアしたい」という岡崎さんの想いは、人の輪と共に広がり続けている。

「また、この家に入れるなんて」と喜んでくれる音楽家夫妻の教え子たちの姿もある。亡くなった音楽家のご主人は日本にブラスバンドを広めた人で、弟子や教え子は何千人にものぼるという。岡崎さんは、音楽家の妻から寄せ書きノートを託され、カフェに置いている。

「この家自体が持つ、ポテンシャルの高さをしみじみ感じます。きっと音楽家夫妻の歴史をこの家が吸い込んでいるからなのかもしれません」

(次回は3月5日に掲載予定です)

■オススメの3冊

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『なすんじゃさんのキムチ・ナムルとおかずの教室』(な すんじゃ)
 ここで料理教室を定期的に開催している料理研究家の本。「な すんじゃさんのレシピでキムチを作ったらもうスーパーでは買えません! どれもシンプルで美味しいんです」

『今日もごちそうさまでした』(角田光代)
 作家・角田光代さんの食にまつわるエッセイ集。「角田さんが食わず嫌いだったものに挑戦する時など、自分とも妙に重なり、情景が浮かぶよう。レシピもあって、自分でも作ってみたくなります」

『まぼろしハワイ』(よしもとばなな)
 父の死後、傷心の主人公はフラダンサーの義理の母とホノルル空港に降り立った――。「行き先がハワイじゃなくても、旅に出る時必ず持って行く一冊です。ハワイの光、空気、風が感じられるんです」

(写真 石野明子)

    ◇

松庵文庫
東京都杉並区松庵 3-12-22
03-5941-3662
http://shouanbunko.com/

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

<9>三軒茶屋に月の満ち欠けのような空間

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<11>「おいしい輪」広げる「食」の本屋

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