花のない花屋

ほとんど会話もなくなっていた夫に

  

〈依頼人プロフィール〉
安田江里さん 43歳 女性
神奈川県在住
派遣社員

    ◇

主人は高校の同級生でした。卒業後も年賀状のやりとりだけ続き、何十年も経ってから、ひょんなことで「ご飯でも食べにいこう」となり、それがきっかけで結婚しました。初めての出会いから19年後のことです。

結婚するとすぐに妊娠しましたが、38歳の高齢出産で戸惑うことばかり。しかも仕事を辞めた翌週に切迫早産となり、予定日より1カ月も早く産まれてしまいました。息子はすぐに保育器に入れられたのですが、アレルギーの数値も高く、出産後、私は息子のことでいっぱいいっぱいでした。

1年ちょっとで仕事に復帰すると、今度は育児と仕事に追われる生活に。体の弱い息子には主治医が4人いたので、日々病院にも通い続けなくてはいけません。

次第に主人とは会話がなくなり、気持ちがすれ違っていきました。深夜に一人で泣いていると、慰めてくれるのは11年間連れ添っている猫のさくらでした。何も言わず、頭の髪をごにょごにょしてくれたりします。

そんななか、昨年、私は42歳で初めてぜんそくになってしまいました。これまで咳(せき)さえほとんどなかったのに……。毎日点滴をしましたが、よくなりません。医師から、少しでもぜんそく要因を排除するために猫を手放すよう言われました。私にとって猫は家族です。拒むと、「猫を飼って、死にたいのか」と言われました。

追いつめられて、泣きじゃくりながら夫に相談すると、「そうだよね、それはできないよね。他の方法を考えよう」との言葉。真っ先に「手放せ」と言われると思っていたので、すごくうれしかったのです。そこから、夫婦関係が徐々に戻っていきました。

忙しさにかまけて、家族の存在を見失っていたのは私だったのかもしれません。ぜんそくにかかってしまったことで、改めて大切なものに気づきました。いつも私を支えてくれる夫、息子、そして猫に感謝の花を贈りたいです。

主人は病院の調理師で、明るい色が好きです。5歳になる息子は自然が好きで、石や実を拾ってきては並べて遊んでいます。猫は白に茶色のぶちのスコティッシュフォールド。出会ったのが桜の時期だったのと、鼻と肉球がピンクだったので「さくら」にしました。家族があたたかい気持ちになれるような花束を作ってもらえたらうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

僕も犬を飼っているので、グッときました。ペットも家族の一員なんですよね。途中から「飼うのは諦めろ」と言われても、そんなことできるわけありません。安田さんの気持ち、よくわかります。

そこで、猫の「さくら」ちゃんにあわせて桜をメインでアレンジしました。旦那様やお子さんへの感謝のお花でもありますが、桜をみるとみんなが優しい気持ちになれるかなと思って……。

桜の下はピンクのスイートピーを敷きつめています。「あふれんばかりの感謝の気持ち」を表したくて、たくさん差しました。スイートピーの間には、エピデンドラムやバラ、ラナンキュラス、カーネーション、アスチルベなどを入れています。ショッキングピンクのチューリップがアクセントです。

桜は現在8分咲きなので、数日で散ってしまうかもしれませんが、そのあとには下に敷き詰めたお花が顔を出します。春ももうすぐ。また新しい季節がやってきますね。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

ほとんど会話もなくなっていた夫に

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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