花のない花屋

弁護士になったシェアハウスの元同居人へ

  

〈依頼人プロフィール〉
竹井彩さん 27歳 女性
フランス在住
学生

    ◇

昨年の暮れ、大切な男友達が司法試験に受かり、法律事務所に就職しました。彼は大学時代に知り合い、シェアハウスの同居人でもありました。いつも明るく、周りを気遣う彼のあだ名は「ダディ」。ときに「パパ」。みんなの父親的存在でした。

あるとき、彼が準備していた就職のための応募書類をたまたま目にして、その過去について知りました。中学生のときに父親をなくし、3人兄弟の長男として母親を支え、弟たちの面倒をみてきました。当時、一番下の弟はまだ赤ん坊だったといいます。

悲しみのまっただ中にいた彼をさらに苦しめたのが、父親の死を契機とする法的な問題でした。まわりの人たちとの関係が壊れていくとき、法律を知り家族を守っていてくれる人がいたら……。そう感じたことが法律家を志すきっかけになったといいます。

同じ家に住んでいたので、司法試験に向けて彼がどれだけ努力をしてきたのかは間近で見ていました。周りの学生が高い授業料を払って司法試験の予備校に通う中、彼は奨学金をもらいながら大学に通い、昼間はアルバイト、夜は勉強に没頭し、自力で司法試験に合格したのです。絵に描いたような苦学生のサクセスストーリーですが、本人の苦しみと努力は他人には計り知れないものだったと思います。

彼と知り合ったとき大学院にいた私は昨年の秋から、パリで哲学を勉強しています。私もアルバイトをしながら大学に通っていて、留学準備でつらかったときに彼が応援してくれました。彼の支えなしでは、今の自分はなかったと思います。

試験合格と就職祝い、そしてこれまでの感謝を込めて東さんのお花を贈りたいです。彼は茶道や落語など日本文化が大好きなので、和を感じさせるお花にしていただけないでしょうか。私はパリにいるので、フランスの香りも少し加えていただけたらうれしいです。深い苦しみを乗り越えた彼が力強く活躍し、周りの人を照らし続けてくれるよう、明るいお花にしてください。よろしくお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

“フランスの要素”を入れてというリクエストでしたが、彼が好きそうな“和の要素”を全面に出してまとめてみました。

誰かに花を贈る場合は、大きく分けて依頼人のテイストを重視する場合と、贈る側のテイストを重視する場合とがあります。今回は、女性から男性に贈るお祝いの花だったので、「俺の好み、よくわかってるじゃん!」と相手に思ってもらえるよう、あえて彼のテイストに寄り添ってみました。

使ったのはアイリス、クレマチス、ヤグルマソウ、マム、キンセンカ、クリスタルリリー、スイートピーなど。黄色、紫、緑にオレンジの差し色を加え、“明るく派手”な色合いにしました。和の花だと華やかでも上品なトーンになりますよね。さて、彼の反応はいかがでしたか?

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

弁護士になったシェアハウスの元同居人へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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