花のない花屋

隠し子の秘密抱えて育ててくれた母へ

  

〈依頼人プロフィール〉
篠田夕子さん(仮名) 31歳 女性
福岡県在住
会社員

    ◇

年明け、62歳の父に隠し子がいることがわかりました。30年間隠していた事実です。
姉、兄、そして私と子ども3人が自立し、それぞれの家庭を持った今、母がすべてを打ち明けようと決意したのです。母はまず兄に話し、兄が姉へその事実を告げました。ただ、2人は私に伝えるかどうか迷ったそうです。その隠し子は私と同い年だったからです。それでも、最終的には家族みんなが共有するほうがいいということになって、兄から聞かされることとなりました。

私は衝撃を受け、体中にあらゆる感情があふれました。自分の父親がそんな人間だったのかという恥ずかしい思い、苦しみを胸にしまって育ててくれた母への感謝、自分は必要とされていなかったんじゃないかという気持ち、やさしい父との思い出……。

正直に言えば、今もまだ消化しきれていません。兄から話を聞いた後、両親と私の3人で話をしましたが、父は沈黙を保ったままです。

父はとても優しく、末っ子の私は一番かわいがられてきました。3年前にがんを患ったときは、母と私が毎日、看病したものです。髪を洗い、体を拭き……。自分の夫以上に愛情を注いでいたほど、大好きな父でした。だからこそ、父の行為がまったく理解できません。

一方で、1歳の子の母親でもある私は、母の気持ちがよくわかります。当時は離婚も考えたそうですが、私を産み、家族を守ると決心したそうです。そのおかげで、私たち子どもは何も知らずに楽しい30年を過ごしてきました。もちろん、両親が離婚したらかならず不幸になる、というわけではありませんが。

さまざまな葛藤を経て、いまあるのは母への感謝と愛です。30年もの間、重い秘密を一人で背負い、私たちを育ててくれた母へ「お疲れさま」と「ありがとう」と「ごめんね」という思いを込めてお花を贈りたいです。

母はか細くも芯(しん)がある女性で、野に咲く花が好きです。カラフルなものより、白やグリーンなどでシンプルにまとまっている方が好みかもしれません。生きる力強さを感じるようなアレンジをお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

世の中、本当にいろんなことがありますね。30年間も一人で秘密を抱えていたお母さんは、優しくて本当に芯の強い方なのでしょうね。

そんなお母さんへ感謝を込めて贈る花なので、ご希望通り、白とグリーンの上品なアレンジにしました。フリージア、カラー、エピデンドラム、スカビオサ、スイートピー、ブバルディア、ラナンキュラスなど可憐な花をぎゅっと短く切って、丸くまとめています。「野に咲く花のような感じで」とあったので、ミントやキャンディータクトなど、実際に庭などにある植物を入れ、「摘んできたばかり」という雰囲気を出しました。

花はシンプルに低い位置にまとめ、4種類のリーフワークでアクセントを加えています。使ったのは固いランの葉やルスカス、ハラン。見る方向によって全体のイメージが変わるので、その日の気分によって器をまわしながら楽しんでくださいね。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

隠し子の秘密抱えて育ててくれた母へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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