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<13>原宿、絵本とたばこの喫茶店

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 めまぐるしく店が入れ替わる原宿。明治通り沿いにあるオフィスビルの地下街に入ると、地方のシャッター通り商店街のような風景が広がっている。

 そんな中、閉まったシャッターに挟まれた小さな喫茶店がある。店の前には、絵本作家の荒井良二さんが描いた看板と、ドアノブにかかった「絵本が読めてたばこが吸える店」という札。19年前から営業を続ける「SEE MORE GLASS」だ。

「築40年のオフィスビルで、お店を始めた頃には、地下に昔ながらの文房具屋やネクタイ屋なんかがあって、地元密着の商店街だったんです」

 そう振り返るのは、一人で店を切り盛りするオーナーの坂本織衣(おりえ)さん。

 店ではドアノブの札にある通り、数え切れないほどの絵本が自由に読めるが、絵本ありきでこの店を始めたわけではないという。オープン当初、この店に来るのは、急いでランチを食べたり、仕事で打ち合わせをしたりする忙しげな人たちが大半だった。

「疲れている時、本や雑誌を読む気はおきなくても、絵本ならぼーっと眺めることができます。どんな人でも、絵本なら誰でも小さい頃に読んだ思い出があるだろうし、手にとってもらいやすいと思って、私の子どもたちが読んでいた絵本を並べるようになったんです」

 平日だけたばこを吸えるようにしているのは、昔からビジネスマンがよく訪れるからだ。そのかわり日曜と祝日は禁煙。絵本とたばこというアンバランスな組み合わせが共存している。

 ここ数年、若い年齢層の客が増えてきた。

「機械の類は苦手なんだけど、フェイスブックやツイッター、インスタグラムでお店や絵本について情報発信するようになったからかもしれません」

 毎朝、店に来て、好きな音楽をかけて、扉を開ける。坂本さんは「仕事は楽しいし、すごく幸せ。死ぬ前の日まで働ければいい」と思う一方で、新しいことをやってみたいという気持ちも芽生えてきた。

 その一つが、去年から始めた、「それで君を呼んだのに 忌野清志郎を想う」という展覧会だ。清志郎さんの誕生日の4月5日から、命日の5月2日まで、彼のことを好きな作家などが絵や言葉、写真などを通して、あの伝説のミュージシャンに想いを寄せようというものだ。荒井良二さんや竹中直人さん、矢野顕子さんなどが参加している。

「展覧会を少しでも長く続けて、回を重ねるごとに展示作品が増えていけばいいなと思います」

 原宿なのにシャッター通りという不思議な空間にある、小さな喫茶店。これからも店独自の展覧会を続けていきたい、という。

(次回は4月16日に掲載予定です)

■オススメの3冊

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『エリーゼのために 忌野清志郎詩集』(忌野清志郎)
 忌野清志郎さんが唯一遺した詩集。「メロディーやパフォーマンスはもちろん、文字だけでもやっぱり素敵です」

『なんていいんだ ぼくのせかい』(荒井良二)
 店のオープン時、坂本さんがファンだった荒井良二さんに看板のイラストを依頼したことがきっかけで交流が生まれ、今や店のあちこちにサインや原画がある。「この絵本のタイトルを念仏のように唱えてみんな幸せになってほしい」

『しょうぼうていハーヴィ ニューヨークをまもる』(マルラ・カイマン)
 老いた消防艇とそれを愛する人々の気持ちを描いた実話の絵本を、矢野顕子さんが翻訳。「ミュージシャンの矢野さんは、素晴らしい翻訳もされているんです」

(写真 石野明子)

    ◇

SEE MORE GLASS
東京都渋谷区神宮前6-27-8 京セラ原宿ビルB1F
03-5469-9469
http://www7b.biglobe.ne.jp/~seemoreglass/

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

<12>カウンターカルチャー守る「秘密基地」

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<14>静寂の中で楽しむ「ひとり時間」

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