花のない花屋

30歳独身 どうしてもかなわない母に

  

〈依頼人プロフィール〉
荻野かおるさん(仮名) 29歳 女性
秋田県在住
看護師

    ◇

私はこの4月で30歳になります。独身女性の30歳は、いやが応でもひと区切りを意識してしまいます。特に田舎では結婚が早いこともあり、ひとりでいること、親に孫の顔を見せてあげられないことに罪悪感を感じてしまいます。

母は22歳で結婚したこともあり、私が社会人になってからは、会うたびに「結婚しないの?」と聞いてきました。たまに仕事の愚痴をこぼすと、「そんなこと言ってるから結婚できないのよ」と、すぐに結婚に結びつけられました。

母は同じ看護師ですが、働きながらも家庭に人生の主軸を置いてきたので、私がプライベートを犠牲にしてまで働くことに疑問を持っています。頭では私の主張を理解しても、「将来、ひとりのままだったらどうするの?」と親心からつい、口が出てしまうのでしょう。

私も結婚を避けているわけではなく、「いい人がいたら」とは思っています。でもひとりでできるものではないし、誰でもいいわけでもないので難しいのです。そもそも私の人生と母の人生は違います。

そんなことが続き、私は20代後半に我慢しきれなくなり、1年ほど母と音信不通になりました。電話がきてもとらず、実家にも帰りませんでした。

ところが1年くらい前のこと。忙しさと年齢的なものが重なったのか、私自身が体調を崩し、ぜんそくが再発してしまいました。それでも夜勤に出ていたので生活もぼろぼろ。そんなとき、休みを取って付きっきりで看病してくれたのが、ほかでもない母でした。わがままで迷惑かけっぱなしの娘なのに……。ありがたみが身にしみました。

母は複雑な家庭環境で育ち、親戚関係でトラブルもあったようですが、自分で解決して、子どもたちには迷惑はかけないと心を砕いていました。体格が小さいので普段はおとなしく見えますが、実際は肝が据わっていて芯(しん)の強い女性です。「この人には勝てない」といつも思います。

いろいろありましたが、ここまで育ててくれた母へ感謝の気持ちを花にして贈りたいです。母は女性らしく、花柄、ピンク、ハローキティが好き。お花はピンクなど女性らしい雰囲気の中に、「かわいいだけじゃない」母をイメージし、原色のものなども加えてもらえたらうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

春爛漫です。季節のお花をたくさん集めました。ハローキティやピンクが好きなお母さんということだったので、色はピンクや赤中心です。

使ったのは、スイートピー、ネリネ、チューリップ、ミニバラ、カーネーション、エピデンドラム、ガーベラ、トルコキキョウなど。スイートピーは濃いピンクと薄いピンクのバイカラーの花弁で、見方によってはハート型にも見えるんです。ピンクのカーネーションは白い斑入り。

全体の色をなじませるため、少し色にニュアンスのある花を混ぜました。ちなみにチューリップは先端と端がギザギザした珍しい種類です。真ん中の赤いダリアは芯の強いお母さんを象徴しています。

リーフワークはドラサナの葉。明るい黄色っぽい色を選び、折り曲げてフリルのようにしました。

かわいらしい花の中にある、どきっとさせるダリアの赤。荻野さんのイメージする“お母さん”をテーマにアレンジしましたが、どうでしょうか?

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

30歳独身 どうしてもかなわない母に

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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