ファッショニスタの逸品

暮らしと庭をトータルでデザイン 松田行弘さん

松田行弘さん(撮影 石塚定人)


松田行弘さん(撮影 石塚定人)

東京・自由が丘の住宅街を入った一角に、バラのアイスバーグ、ヘンリーヅタ、柏葉アジサイなど、多彩な植物に囲まれた建物が目に留まる。一歩足を踏み入れると、フランスの古い民家に迷い込んだような空間。店名は「BROCANTE(ブロカント)」、フランス語で「美しい古道具」という意味だ。オーナーの松田行弘さんがフランス各地で調達してきたアンティークな道具は、生活のアクセントとして重宝しそうな美しい日用品ばかりだ。

  

ブロカントはインテリアショップと並行して造園業も手がけている。じつは松田さんの本業はガーデンデザイナー。店は奥さんとスタッフに任せ、通称「ロクマル」と呼ばれる愛車のランドクルーザーに乗り、千葉、東京、神奈川の作業現場を行き来する日々を送っている。店のエントランスを彩る魅力的な植物も松田さんのアレンジによるものだ。

「大学時代、アルバイト先の花屋さんで、四季を感じられることがとても楽しかった。僕は生まれも育ちも東京なので、子どものころから、大自然に生い茂るような森林よりも、暮らしの中の身近な草花のほうに親しみを感じていたんです」

  

そう語る松田さんだが、大学卒業後に選んだのは料理人の道。しかし実際に就職してみると、明けても暮れても厨房(ちゅうぼう)の中で過ごす生活になじめず、その道は約1年でリセット。「いま思うと甘さもあった」と松田さんは当時を述懐する。

  

退職後ほどなく、貯金していた約100万円を片手にイギリスへと旅立つ。まるで過去の自分を断ち切るように。そこではさまざまな園芸スポットを訪れ、ガーデニングの魅力に浸かって過ごした。植物を愛し、古い物を大切にし、ゆったりとした生活リズムで暮らすヨーロッパの人の姿に、松田さんは心底感銘を受けたという。そして、「一度はあきらめた植物関係の仕事をもう一度目指したい」と決意する。

  

東京に戻ると、さっそく職探しだ。90年代後半は、ちょうど第1次ガーデニングブームが起きていたとき。松田さんは約6年間、造園関係の会社に勤務し、独立。2003年、自由が丘に現在の店をオープンした。

  

「暮らしと植物をつなげるのが自分の役割」と考える松田さん。店内からは、エントランス越しに植物たちが風で揺れる様子がうかがえる。不思議だが、ここだけ時間の流れ方が違うような気になる。
「そう感じてもらえるのはうれしいことですね」。そう言って、松田さんは少し照れながら目を細めた。そんな温和で優しい彼の語り口とともに、インタビューが始まった。

  

使い込んだものに魅力を感じる

――なぜ、植物関係の仕事をしようと決めたのですか。

料理人の道をあきらめて、イギリスに行き、卓越した構成の庭に感銘を受けたことがきっかけですね。植物の魅力に開眼したのは24歳のころ。帰国後は、剪定(せんてい)の専門書で「造園連(日本造園組合連合会)」という組織があることを知り、とりあえずそこから会社を紹介してもらいました。20年以上前で、今ほどネットが普及していなかったころです。

――「ガーデンデザイナー」という肩書が使われるようになったのはいつごろですか。
ちょうど、90年代後半に第1次ガーデニングブームがあって、そのころからだと思います。デザイナーと呼ばれるだけで、いまだに気恥ずかしいところがありますね。

――当時のブームは、その後の日本の園芸業界にも影響を与えましたか。
そうですね。「ガーデニング」とは、言うまでもなく西洋の考え方から派生しています。ブーム以前は西洋的な庭自体が、日本には少なかったですから。これを提供する側にも知識が十分に行き渡っていなくて、いろいろ無理があったと思います。

――現在は市場も成熟してきたということですか。
そうですね。でもまだ不十分だと思います。先日も、「住宅にはハウスメーカーなど相談できる選択肢があるけど、ガーデニングには、そういった窓口となる場所が少ない」とお客さんから言われたばかりです。

――私たちが植物と上手に付き合うコツを教えてください。
なによりも環境に合った丈夫な種類を選ぶことが大切です。それでも病気が出たり、枯れてしまうものもあるということを認識して、寛容に。手がかかる植物ばかりを選ぶと、人にとってストレスになり、植物との距離も離れてしまいます。最低限のメンテナンスでも、その場所でしっかりと根付けば、自然と空間全体を落ち着いた印象にしてくれます。

それと、自分のライフスタイルにあった植物の量も重要ですね。私たちもお客さんと相談しながら選んでいます。この人なら忙しいと言いながらもやってくれるだろうという場合には、ある程度関わりを持って楽しめる種類や量を提案しますし、この人は水あげもできないかもしれない、という場合には植物の量を極力抑えた提案をします。

――どこか、コンサルティングの仕事にも似ていませんか。
お客さん相手なので、そういうところもあるかもしれないですね。みなさん植物に囲まれた生活をしたいというイメージはあっても、虫が嫌いだとか、手入れが大変だとか、予算との兼ね合いもあったりして二の足を踏んでしまうことがありますが、状況に応じていろいろ調整させてもらっています。

――ヨーロッパと気候が異なるので、西洋の植物を扱う点で苦労されることもあるのでは。

日本は高温多湿なので、ヨーロッパと同じように育てるのは難しいです。ただ例えば、ハーブ類は一般的に高温多湿には弱いけれど、ベランダだと高温になっても湿度が低く抑えられるので、鉢で管理するうえでは適している場合があります。

それと、最近の日本は亜熱帯化しているので、外で過ごす時期が、蚊が発生する時期と大きく重なります。ガーデニングを楽しむうえで、それが非常に難しいところ。多く発生しやすい場所では、できるだけ蚊を抑えるように舗装部分を多くしたり、植物に頼らない空間構成に務めながら造ったりすることもあります。

――この仕事を始められた20年前とでは、日本の気候も変わってきたことを実感されるのでは。
そうなんです。本来なら冬を越せなかった植物が越せるようになったり。20年前と今では平均気温が2、3度上がっているので、パパイヤとかレモンも昔は都内では育たなかったけれど、最近は地植えでも大丈夫なケースがあります。そのあたりの知識は、僕も最新のものにつねに更新していかないといけません。

――庭が完成した後のお客さんの反応はいかがですか。
やはり植物が身近になったと喜んでもらうことが多くて、やりがいがある仕事だなあと思います。ここ数年は、ふたたびガーデンニングがブームですし、みなさん植物への意識は高くなっていると思います。僕は、基本的に植物を嫌いだと言う人っていないと思っています。

――休日はどういうふうに過ごされていますか。
休みの日はできるだけ家族と一緒にいたいと思います。とくに休日の夜は、キッチンで好きな料理を、お酒を飲みながら作るのが楽しみですね。

――料理と植物というのは、なにか通じるものがありますか。
どちらもアレンジが必要だということ。僕は何かをアレンジしたり、作ったりすることが好きなんですね。それと、自分で作ってひとりで食べるというのではつまらない。植物もそうですが、「これ、いいよね」ということを共有することが楽しい。作ったものに対して周りのみんなが喜んでくれるのがうれしいんです。最近は料理をしても子どもたちからリアクションがないと、自分から「おいしいよね?」って、無理矢理聞いちゃいますけど……(笑)。

――愛用している私物もノスタルジックなビンテージものが多いのですね。
自分でも不思議なんですが、昔から新品よりも使い込んだものに魅力を感じます。ただ、今日は撮影なので、着ている服や紹介するトートバッグは新しいものにしてみました。ちょっときれいすぎて恥ずかしいくらいです。

――今後について聞かせてください。
「衣」や「食」に比べて「住」はまだまだ選択肢が少ない。でも、日常の生活を楽しむ方法や質を高める工夫をする余地はたくさんあると感じるんです。だから、ショップでは、インテリアを楽しむ一つのスタイルとしてアンティークを取り入れた暮らしを、庭では、植物との暮らしを楽しむ一つの場として、個々のライフスタイルに合わせたデザインをトータルで考え提案する。これからも続けていきたい、奥の深い仕事だと思っています。
植物もどんどん新しい品種が開発されて、多種多様になっています。僕自身もまだまだ知らないことだらけ。勉強しなきゃいけないことがたくさんあるなと感じています。
(文 宮下 哲)

松田行弘(まつだ・ゆきひろ)
ガーデンデザイナー。学生時代に花屋でアルバイトをするなど植物に興味をもち、イギリス滞在時に園芸関係の仕事へ進むことを決意。帰国後、造園会社で6年間働き、独立。庭のプランニングと施工を行う一方で、自由が丘にアンティーク家具や雑貨を扱う「BROCANTE(ブロカント)」を2003年にオープン、現在に至る。著書に『庭と暮らせば』『緑と暮らせば』『フランスの庭、緑、暮らし』(共にグラフィック社)がある。
http://www.brocante-jp.biz/

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