花のない花屋

パイプオルガンの音で結ばれた、ドイツ生まれの夫へ

  

〈依頼人プロフィール〉
吉田文さん 43歳 女性
愛知県在住
パイプオルガン演奏家、大学教員

    ◇

この春、主人が66歳で定年退職をしました。20代で母国のドイツから日本に移住し、37年間東京の音楽大学で教鞭をとってきました。すばらしい生徒に恵まれ、たくさんの作曲家、音楽家、教育者などが巣立っていきました。まずは心からのおつかれさま、を伝えたいです。

今では外国人とわからないほどきれいな日本語を話しますが、来日したときは言葉もままならず、学生とも辞書を片手にコミュニケーションしていたそうです。

主人と私を結びつけたのは、パイプオルガンです。私は中学卒業後からドイツへ渡り、音楽の勉強をしてきました。パイプオルガンを専門にし、ケルンのある教会でパイプオルガン演奏家として働いていました。一方、主人は牧師の息子で、彼も幼い頃からパイプオルガンを弾いていました。パイプオルガンと一緒に育ってきたようなものです。

作曲家になった彼は、あるとき子供の頃に聞いていたパイプオルガンの響きを探していました。そして見つけたのが、当時私が弾いていたパイプオルガンでした。まさに彼が幼い頃に聞いていたものだったのです。それがきっかけで知り合った後、2007年に結婚しました。

帰国後、私は日本各地でパイプオルガンを演奏しています。この音の響きによってたくさんの人が幸せになってくれたらいいな、と思いながら弾いています。私の演奏活動は、自らもパイプオルガンを演奏する主人がいつも一緒にいてくれて、聴いてくれて、アドバイスしてくれるから成り立っていると思います。一緒にコンサートをすることもありますし、公私ともに二人三脚をしているようなものです。

私と一緒になってくれてありがとう。そして、定年退職後も一緒に幸せをつくり、幸せを伝えていきたい、という気持ちを込めてお花を贈りたいです。彼は、いつも音と音の調和を探しているので、ハーモニーを感じるようなお花を作ってもらえたらうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

実は僕、ケルンには何度か行ったことがあるんです。パイプオルガン職人を訪ねたこともあり、優しく包み込む、あの気品のある音は大好きです。

パイプオルガン奏者の奥様からご主人へのお花ということだったので、ケルンという町のイメージと、パイプオルガンのハーモニーをテーマにまとめました。

“ハーモニー”なので、いろいろな花を使っています。バラ、ラナンキュラス、チューリップ、トルコキキョウ、スカビオサ、ジンジャー、ラケナリア、ナデシコ、カーネーションなど色とりどりの花をバランス良く差しました。パープルの花が全体をまとめるポイントになっています。この色が入ることで全体が引き締まり、鮮やかだけどポップすぎず、大人っぽいアレンジに落ちついているんです。

トップにあるのは多肉植物。ひょろひょろと伸びているのは花で、新しい一歩としての芽吹きを表しています。途中で切って水につけておけば、またそこから育てることができます。エアープランツのチランジアもそのままずっと楽しめます。

新しい人生の一歩、これからも仲良く過ごしてくださいね。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

パイプオルガンの音で結ばれた、ドイツ生まれの夫へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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