鎌倉から、ものがたり。

<23>「畑のレモン」で、タルト・オ・シトロン/カフェカクタス5139

 JR横須賀線に乗ると、実感することがある。鎌倉界隈は女性たちが、何だかカッコいい――。
 とりわけ北鎌倉、鎌倉あたりで見かけるマダムの中には、ハッとする雰囲気の人たちが多い。余裕を感じさせながら、母親っぽさ、妻っぽさが薄く、すっと一人で立っている。そこからマイペースで、豊かな生活を楽しんでいる様子が伝わってくるのだ。
 鎌倉市大町の自宅で料理教室「CAFE CACTUS(カフェカクタス)5139」を主宰する勝見早苗さん(66)も、そんな鎌倉女性の一人だ。母方の実家が材木座の農家で、生まれた時から今に至るまで、ずっと鎌倉在住という鎌倉っ子である。
 教室は日蓮ゆかりの名刹、安国論寺の山すそに位置する。コバルトブルーに塗られた庭の扉が、里山の背景に映える。
 教室のメニューは、前菜、メイン、デザートの3コースを基本にした月替わりで、自家製のパンかご飯を組み合わせて、季節ごとにテーブルのしつらいも変えていく。
 たとえば4月は、グリルした桜鯛を生春巻きにして、フレッシュミントソースでいただく一品がメイン。それに、牛肉の巻き寿司、若竹のお椀、春野菜の揚げ物を合わせて、最後はあずきのお菓子とほうじ茶でしめた。
 4月は「和」の雰囲気で行ったが、その前の3月は、春を待つ気分を託して「洋」のメニューにした。赤と黄色のパプリカ詰めにしたミートボールを主役に、焼き立てのオートミールグラハムブレッド、タルト・オ・シトロンという、華やかなラインナップ。
「畑になっていたレモンを見て、そこから逆算してみたの」と早苗さんが言う通り、 自分の畑と庭で育てた野菜とハーブ、果物がふんだんに使われていることが、どの月にも共通する。教室で使う玉子も、畑で飼っている烏骨鶏(うこっけい)の生みたて。テーブルの上に並んだフェンネル、ローズマリー、セージ、オレガノや、朝に摘んだばかりのスミレの花を見た生徒たちから、「わあ、ぜいたくですねえ」と、歓声が上がる。
 早苗さんの流儀は、下ごしらえから後片付けまで、みんなで一緒に取り組むこと。
「ともかく一緒に作って、食べる時にもう一度、作り方を整理して伝えるようにしています。そうすると、分かりやすいんですね。うちの生徒さんたちは有能で、その後に片づけも、会計も、あっという間にやってくださるんですけど(笑)」
 早苗さんのリラックスした人柄の下、生徒たちもゆるやかに集まって、なごやかに料理を作って、ともに昼のひと時を楽しむ。女性たちが焼くパンの香りは、なんと心を弾ませてくれるものか。楽しい場ながら、いつまでも長居をしないで、またあっさりと解散していくところが、いかにも鎌倉的だ。

後編はこちら

◆清野由美さんの&w連載「葉山から、はじまる。」が1冊の本になりました。『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)はこちらから。

>>写真特集はこちら

<鎌倉から、ものがたり。>バックナンバー

PROFILE

  • 清野由美

    ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。在学中、英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

  • 猪俣博史(写真)

    1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

<22>複線型料理家の原点は星と羊とフランスの厨房

トップへ戻る

<24>始まりはパンとスープの教室だった

RECOMMENDおすすめの記事