花のない花屋

働く母から娘へ 華やかなお祝いの花を

  

〈依頼人プロフィール〉
小堀まゆさん(仮名) 46歳 女性
東京都在住
会社員

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満開の桜の下、大きな赤いランドセルを背負った娘と小学校の門をくぐったのが、まるで昨日のように思い出されます。あれからはや6年。あっという間に大きくなった長女が、この春小学校を卒業しました。

あの日握りしめた小さかった手のひらも、今では私と変わらないほど。でも、あのときのやわらかくて心細そうな手の感触は、今でもはっきり私の中に残っています。

仕事を続けていたので、小学校低学年の頃はシフトを朝7時半から17時までに変えてもらい、なんとか乗り切ってきました。朝は毎日6時半頃家を出ていましたが、学童に迎えに行くのはいつも閉館の18時ギリギリ。家に帰ってからも、家事に追われてゆっくり話を聞いてあげることすらできず、いつもいっぱいいっぱいの私でした。

ある日、手遊びの「アルプス一万尺」をする相手がいなくて、部屋の壁を相手に遊んでいる娘をみたときは、心の中で何度も「ごめんね」と謝りました。とにかく満足に手をかけてあげられず、「こんな子育てでいいのかな」と自問自答しながら必死で走り抜けてきた6年間でした。

高学年になってからは、娘は受験のため毎日のように塾に通い、さらに空手や書道なども習っていました。気がつけばすくすくと明るく育ち、なんでも前向きに取り組める子になってくれました。自分の子育てに自信はありませんでしたが、娘の成長ぶりにほっと安心しています。

新しい門出に立つ娘へ、華やかなお祝いのお花を作っていただけないでしょうか。娘はオレンジ系が好きです。見るだけで笑顔になれるような、あたたかな花束を作っていただけたら嬉しいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

僕も3歳の子どもがいるので、ぐっときてしまいました。みんなが多かれ少なかれ同じような悩みを持っているのでしょうが、親としての気持ちに共感しました。

中学生になったばかりのお子さんへの花だったので、直球勝負です。お子さんが好きな色、オレンジ一色でアレンジしました。使ったのはダリア、ガーベラ、チューリップ、サンタンカ、エピデンドラム、カーネーション、カラテア。華やかさを出すため大きなカトレアも差しました。周りのグリーンはシペラスとポリシャス。春なので、外に向かっていくような動きを意識しました。

ちなみに、今回は同じ種類の花を一箇所にかためる“グルーピング”という手法を使っています。こうすると花の特徴が際立ち、子どもにも花の個性がぱっとわかりやすいんです。

おもちゃや本など実用的なモノではなく、花を子どもに贈るって素晴らしいこと。どれだけお母さんが自分のことを大切に思ってくれているのか、それを一瞬で伝えられるのが花の力だと思います。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

働く母から娘へ 華やかなお祝いの花を

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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