鎌倉から、ものがたり。

家族の夢がつまった「ポンポンケークス通り」/ポンポンケークス・ブールバード

家族の夢がつまった「ポンポンケークス通り」/ポンポンケークス・ブールバード

 今回はJR鎌倉駅を少し離れて、湘南モノレールが通る山側から、「ものがたり」をお届けします。

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 鎌倉市梶原は、古都・鎌倉とはまたイメージが違った、新しくて静かな山沿いの住宅街だ。広くまっすぐな道が通った一角に、この春、界隈(かいわい)の雰囲気を変える新しい店がオープンした。名前は「Pompon Cakes Blvd.(ポンポンケークス・ブールバード)」――。

 と聞いて、この連載の第11回12回に登場した立道嶺央さんの、カーゴバイクによる移動ケーキショップを思い出した方も多いのでは?

 まさしくその通り、ここは嶺央さんの「Pompon号」の“ベースキャンプ”としてオープンした工房&ケーキショップ&カフェなのだ。ただし今回の主役は、嶺央さんをケーキ作りに目覚めさせた母であり、「ポンポンケークス・ブールバード」のパートナーでもある立道有為子さん(63)。

 旅先のサンフランシスコでカーゴバイクの流行を見た嶺央さんが、「だったらケーキ作りが得意な母にケーキを作ってもらい、それを西海岸風にディレクションして売ろう……」と、いささか甘く考えた時、「ケーキを売るなら、自分で一から覚えなさい」と、厳しくも筋を通した女性である。

 有為子さんは鎌倉山を目前にする自宅で、ケーキ教室「La Montagne(ラ・モンターニュ)」を主宰して30年以上のキャリアを持つ。教室と同時に、記念日用のケーキの注文も別個に受けて、「世界にひとつだけのケーキ」を作り続けてきた。「私が作るケーキは、パティシエ修業をしたプロとは違って、あくまでも家庭を中心にしたもの。長年続けることができたのは、周囲の方が『おいしい』と言ってくださったから。そこを勘違いして『商品として不特定多数の方にもすぐ売れる』と考えたらよくないな、と思ったんですね」

 そう語る有為子さんは、厳しさではなく、謙虚さをまとった人だ。自然でやさしい口調から、まっすぐな心が伝わってくる。

 有為子さんのケーキ作りのルーツは、1970年代に夫の赴任に伴って暮らしたアメリカ西海岸の日々にある。サンフランシスコの丘の上にある一軒家で、フランス人マダムから、伝統的なフランス家庭料理にアメリカンテイストが混じった、独特の料理とお菓子を習った。

 「たとえばお料理なら、ソースを工夫した鶏のグリル。お菓子なら、洋ナシの赤ワイン煮にバニラアイスクリームを添えたもの。細かく技巧を凝らしたものではありませんが、ルビー色に染まった洋ナシには、フランス人らしい美意識がにじみ出ていました。そこに、アメリカっぽいアイスクリームを組み合わせると、ちょうど伝統と自由が混ざりあった、いい感じが出たんです」

 有為子さんが覚えたテイストを「フレンチアメリカン」と面白がったのが、息子の嶺央さんだった。学生時代に建築を勉強した嶺央さんは後に、自らケーキを作り、カーゴバイクで売り、さらに店まで企画するようになる。

 「いつか年を取ったら、主人がコーヒーを淹れて、私がケーキを焼いて、そんなお店ができたらいいね、と家族で言ってはいたんです。でも、それは『夢』の話。まさか、その夢が本当になるなんて」

 店の企画が立ち上がった時、嶺央さんは「母さんの好きなようにしていいよ!」と言ってくれた。かくしてできあがったのが、木の床と白い壁を基調にした風通しのいい店。

 低層の住宅街に小さな商店が並ぶ界隈の雰囲気は、ちょっとブルックリンにも似ている。本家ブルックリンのように、中心地から離れた一角が、楽しい暮らしの場として、また新たに発展していけばいいと、母と息子は願っている。

Pompon Cakes Blvd.(ポンポンケークス・ブールバード)
神奈川県鎌倉市梶原4-1-5 助川ビル

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PROFILE

  • 清野由美

    ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

  • 猪俣博史(写真)

    1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

始まりはパンとスープの教室だった/カフェ・カクタス5139

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記念日に作るケーキの、特別なキラキラ感を/ポンポンケークス・ブールバード

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