花のない花屋

究極の“断捨離”を敢行した母に

  

〈依頼人プロフィール〉
鈴木淑子さん 54歳 女性
アメリカ在住
大学講師

    ◇

去年の2月、久しぶりにアメリカから帰省すると、母から「家を売ってマンションを買おうと思うんだけれど」と言われました。父が亡くなって5年。子ども3人もそれぞれ独立し、一人暮らしをしていた母は「大きな家はメンテナンスも大変だし、もう少し手頃なマンションに住みたい」と考えたようです。東日本大震災のときに心細い思いをしたのも理由の一つでした。

しばらくして、母は1年後に完成する低層マンションを見つけました。しかもそこは、50年以上も前に、新婚の母と父が神戸から引っ越してきて最初に住んだ街でした。「あの頃あった日本茶のお店もまだ同じ所にそのままあったのよ」とうれしそうでした。

それからは引っ越しのための大整理です。家族みんなの思い出の品々を、1年かけて整理していきました。父との遠距離恋愛時代のラブレターもたくさん出てきたと言っていました。写真なども、母は本当に気に入ったものだけを残し、あとはすべてシュレッダーへ。究極の“断捨離”を敢行しました。

マンションができあがるまでのこの1年、電話で聞く母の声は、新しいことを始めるのがうれしくて仕方がないという感じで、明るく幸せに満ちていました。見事だな、と思います。79歳になるけれど、まだまだ新しいことに挑戦できる母はとてもかっこいいです。この5月、無事に引っ越しを終え、新しい人生をスタートさせた母へお祝いのお花を贈りたいです。

母はもともと幼稚園の先生でした。チャレンジ精神が旺盛で、定年後はフォークダンスやコーラスを始め、70歳を越えてからインターネットを学び、今はiPadを使いこなしています。色は明るい黄色やピンクが好きです。鉢植えなどに移し替えて育てられる植物を入れて花束を作っていただけないでしょうか。

  

花束を作った東信さんのコメント

バイタリティあふれるお母さんですね。70歳を過ぎてからインターネットを使い始め、79歳でマンションへの引っ越し! なかなかできることではありません。そのエネルギーをお花で表すため、思い切ってイエローのピンポンマムだけでアレンジしました。

ピンポンマムは70本くらい使っています。イエローを引き立たせるため、リーフワークには濃いグリーンのハランを。球状のお花と対比させ、葉はクルクルとねじって動きを出しました。

トップにはアクセントとして多肉植物を加えています。これはお花が終わったら、水につけて育てられます。根が生えてきたら土に植えかえてくださいね。

ピンポンマムのイエローが、新居を明るく照らしてくれますよう。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

     ◇

「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

究極の“断捨離”を敢行した母に

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

facebook

instagram

http://azumamakoto.com/

PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


離婚した私と娘の、大切な「家族」へ

一覧へ戻る

離婚後、娘を大事に育ててくれた義母へ

RECOMMENDおすすめの記事