Woman’s Talk

弱った時は、自分に探りを入れるいい時間 樋口可南子さん

ひとつの目標に向かっていく共同作業が面白い

 映画「愛を積むひと」(6月20日公開)に出演している。東京の町工場を畳み、北海道の美しい村・美瑛に移住した夫婦。しかし妻は重い心臓病を夫に隠し、何通もの手紙を遺して逝く。「私はダメですね。特に夫には話して、苦しい時は苦しいって言います(笑)。移住前の2人の生活がどうだったのか、彼女の葛藤はどれほどかと、自然の中に家を1軒建てた素晴らしいロケ現場でしたが、考える時間が多かった気がします」

 佐藤浩市さん演じる夫は、妻の希望で家のまわりに石を一つ一つ積み、塀を作る。石が積まれていくように日々の暮らしが刻まれ、物語が広がっていく。「浩市さんが黙々と石を積んでいく姿は、何か心に届くものがありました。私、自分の役がつかめない時は、相手役の方を観察するんです。そうすると自分が見えてくる。浩市さんにはとても純粋なものを感じます。だからでしょうか、物語の中の二人は理想の夫婦というより、純粋な夫婦なんだなと気づいたんです」

 女優の醍醐味は「みなでひとつの目標に向かっていく共同作業の面白さ」だと話す。「どんな役をやりたいというのが、私はないんです。よくこんな役を下さったなという新鮮な驚きが面白く、だからいつもまっさらでいて、また別の役ができるのではと思われる人になりたいと。女優というパーツとして共同作業に参加することが楽しく、ものを作っているという実感があります」

相方が面白がりの、いい人で良かった(笑)

 10年前、京都の郊外に家を建て、2カ月に1回そこで暮らしている。「心と体のバランスがチグハグになった」ことがきっかけだった。「家にいても落ち着かず、外の景色が迫ってくるような感覚に襲われたんです。プチ家出をしてみたり(笑)、美味しいものを食べたり、いろいろやっても落ち着かず、たまたま仕事で行った京都でストンと落ち着いた。わぁ、救われたと思って、京都に住みたいと、直感ですね。夫に話したら、面白いんじゃないかと。相方が面白がりのいい人で良かったなぁと(笑)。弱った時って、自分が何を欲しているのか、自分に探りを入れるすごくいい時間だと思うんです」

 田んぼに囲まれた自然あふれる環境。近所のあぜ道を夫と愛犬と散歩する時間がとても好きだと話す。さらに最近は、仕事を通して知った日本の手仕事に惹かれ、特に「こぎん刺し」にハマり、自らも作っていると話すが、こんなことも言う。「ごく最近、自分でもビックリしたのが新聞のクロスワードパズルにハマりつつあって(笑)。糸井が帰ってきて『お前、何やっているんだ、そんな奴だと思わなかった』ってビックリして(笑)。スマホで調べて知らない世界を知ることができたり。昨日はついに、景品が当たる喜びを経験したくて投稿までしてしまいました(笑)」

 等身大の好奇心や感性に正直に、ささやかなことでも面白がれる、柔らかな感性の人である。それが女優・樋口可南子の魅力でもあろう。

撮影:秦淳司/文:追分日出子
スタイリスト:佐伯敦子/ヘア&メイク:髙野雅子
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ひぐち・かなこ(女優)
1958年、新潟県生まれ。78年TVドラマ「こおろぎ橋」でデビュー。80年「戒厳令の夜」に映画初出演しゴールデンアロー賞新人賞受賞、以降、映画「陽炎」「四万十川」「阿弥陀堂だより」「明日の記憶」などで日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。映画「愛を積むひと」(6月20日(土)公開、全国ロードショー)は「アキレスと亀」以来7年ぶりの映画出演。1993年、糸井重里さんと結婚。現在、東京と京都の暮らしを行き来すると同時に、雑誌企画で伝統工芸品や日本の手技を訪ねる旅を続けている。

■この記事は、2015年6月13日付朝日新聞朝刊「ボンマルシェ」特集のコーナーの転載です

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