ファッショニスタの逸品

タイムレスなデザインを自然体で 角田陽太さん

角田陽太さん(撮影 石塚定人)


角田陽太さん(撮影 石塚定人)

中目黒にある築48年の古いマンション。その最上階の4階にプロダクトデザイナー、角田陽太さんのオフィスがある。

賃貸物件だがリノベーションを条件に入居したという室内は、古い建具を残した間仕切りのないシンプルな空間。ところどころにさりげなく置かれたアンティークの器や日用雑貨は、よく行く蚤の市で購入したお気に入りの品々だという。ベランダから眼下に中目黒の街が見渡すことができて、まるで居心地のいいカフェに迷い込んだようだ。

  

「じつは、業務拡大路線を考えて、もっと広い場所に引っ越そうと計画中です。でも、いい物件がなかなか見つからなくて」

  

探している物件は、いまと同じような昭和のたたずまいを残す空間だそうだ。たしかにここ数年の彼の活躍ぶりを考えれば、スペース的に手狭になってくるのは当然のことだろう。飲料メーカーのキリンから先日発売されたビールサーバーとペットボトル、そしてウォーターサーバーの新製品のデザインも彼が手がけた。現在進行中のアイウエアのデザインプロジェクトも間もなくリリースされる予定で、今後もさまざま案件が控えている。

  

角田さんがデザインの仕事に就いたのは2003年、大学卒業後にイギリスに渡ってからだった。著名なプロダクトデザイナーのもとで経験を積み、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修了後、08年に帰国。無印良品のインハウスデザイナーとして多くのヒット商品を生み、プロダクトデザイナーとしての礎を築いた。

  

11年に独立すると、自ら「YOTA KAKUDA DESIGN」を設立。これまでにテーブルウエアや時計、また帽子のデザインなど、身の回りのものを中心に数多く手がけきた。インダストリアルの細かな知識をもちながら、クライアントと対等に交渉しデザインワークができる、今、若手の中でももっとも期待されるデザイナーのひとりと言っていい。

  

飲食にもこだわりがある。それがこうじて某ウェブマガジンでは酒場めぐりの連載も担当している。「毎晩、夜8時にはどこかで飲みに行ってます」と飄々(ひょうひょう)と語りながら、「仕事もプライベートも、要はタイムマネジメントをどうするかなんですよね」と言い切る。そのプロフェッショナルな姿勢に、デザイナーの矜持(きょうじ)を垣間見せた。

  

デザインの醍醐味は、ユーザーに喜んでもらえること

――酒好きと聞きました。

 お酒はなんでも好きです。それに合うような、食にもかなりこだわってしまいます。

――場所は、どのあたりですか。

 拠点は中目黒ですが、この周辺だけでということではなくて、どこでも行きますよ。東のほうの下町も好きだし。東京の北のほうとかはあまり行ったことないんですが、行きたいなあと思います。

――仕事が行き詰まったときに飲むこともありますか。

 う~ん、あまり行き詰まることがないんですよね。海外で生活をしていたときはほぼ定時で仕事が終わっていたし、いまも毎日だいたい20時にはどこかで飲んでいます。

――作業が、ギリギリになることはないんでしょうか。

 子どもの頃は夏休みの宿題が最後の最後になっていましたが、今は僕のなかで、タイムマネジメントがしっかりできているつもりなので、そこは大丈夫です。

――キリンのプロジェクトでは、新業態のサーバーをデザインされました。

 ビールサーバーはとても思いきったデザインができたと思います。通常はステンレスで四角いものだったのを、丸く白いものに変えました。ビールを入れるペットボトルもデザインしたのですが、僕にとっては代表的なプロダクトになったと思っています。

――メディアでも話題になりましたね。

 キリンの新業態プロジェクトですし、みんなが新しいデザインで新しい製品を作ろうという意気込みがありました。これはデザインリテラシーの問題ですが、今回のプロジェクトは、そういう意味でリテラシーの高い人たちが決定する立場にいたのが大きかったと思います。

――決定権のある人がそういう立場にいると違いますか。

 全然、違いますね。いいデザイナーを育てるのは当たり前ですが、日本は、それと同じくらいデザインリテラシーの高い経営者を育てるべきだと思っています。

――具体的にはどういうことですか。

 クライアントには、「これはいいデザインだよね」という直感的な意識と、「デザインの力で成功したい」という2次的な意識があります。経営者には特に後者をより明確にもって欲しい。「好きにデザインをしてください」と言われるよりは、「こういうものをやって、売れるものを作りたいから一緒にやりましょう」と言われたほうがやりやすいわけです。つまり、デザインの力で売り上げがこんなに違うんだ、ということを分かってくれる経営者がもっと増えたらいいなあと。

――クライアントを説得するのも、デザイナーのスキルとして求められています。

 できれば僕はデザインだけをしていたいのですが。僕の知る限りでは、日本にいるデザイナーでそれを実現している人は、ごく少数なのかもしれません。僕もデザインだけで暮らせないものかなと日々考えています。

――コンサルティングまでやるデザイナーとはスタンスが違うと。

 彼らがやっているのは、「ブランド力」の部分。僕が意識的にやっているのは「商品力」というか「製品力」です。それが結果的に前者にもなることが理想です。

――デザインをすることの醍醐味(だいごみ)とはなんですか。

 やっぱり人を喜ばせることだと思います。僕は作品じゃなくて製品をデザインしているので、自分がどうかというよりは、それによって喜ぶユーザーがいるかどうか。つねに作品にならないように気をつけています。クライアントだけがその場だけ喜ぶようなものって、すぐに飽きられますから。

――作品でないというのは分かりやすいですね。

 経済論理でもうけようという人がいないと、どうしても作品になってしまう。だからリスクのない人たちと仕事をするとよくないことが起きる。地方の補助金目当ての仕事を中心にしているデザイナーもいます。しかし「これで売れます」と言えるデザイナーのほうがよっぽど感度が高いし、売りたい気持ちがあるから、一生懸命それに答えようとする。自分の作品を残しているわけではない。たとえ、そんなことやっても残らないですよ。

――奇をてらったデザインも多くあります。

 身の回りのものがとげとげしいデザインである必要はまったくなくて、デザインされていると思われなくてもいいんです。うんちくじゃないですから。「いいから使っていました」というほうが正しいデザインのあり方のような気がします。

――気付いたら、いいデザインだったと。

 だから、安いものこそていねいにデザインされていなきゃいけない。そういう意味では、個人的には、もっと日本人の文化レベルをあげていけたらと思います。結局、いいデザインのものが売れれば、値段も安くなるし、メーカーもユーザーも誰もが得をするわけですから。

――着ている服にはこだわりはありますか。

 古着も新品も買います。気に入ると同じものを繰り返し買う傾向がありますね。今日履いているデニムは、〈APC〉のスタンダードというタイプです。僕はずっと買い続けられるものが好きなのかもしれない。

――腕時計も素敵ですね。

 腕時計は〈ミリタリーウォッチカンパニー〉というスイスのメーカーのものです。これまで腕時計はつけていなかったんですが、これはなんだか感覚で買ってしまいました。

――そこからインスピレーションを受けることもあるのでは。

 ここ数年、壁掛け時計をデザインしていますが、ふだん使っているものから、なにか抽出できないかと考えますね。僕自身がその良さを実感したくて買っているところもあります。

――身の回りのものすべてが仕事に直結しているということですね。

 そういう意味では、買うものすべてが経費ということかな。それはしょうがないことです。お酒を飲んでいるときも、おいしいと思えば、その感覚をデザインに生かしたいし、おいしい料理を知らない人が、レストランのデザインや食器のデザインができるのか。つまりトータルライフとして、僕のなかですべてがつながっているんだと思います。

――今後について教えてください。

 このまま拡大路線をたどって営業をかけていくのかどうか、僕自身いろいろ考えているところです。どちらにしても言えるのは、廃盤にならないものを作っていきたいということ。今後もタイムレスなデザインを自然体でできればいい。世界を劇的に変えるようなデザインはできないかもしれないけど、個々の人たちをちょっとだけ幸せにすることはできるかもしれない。そういうタイプのデザイナーでいたいなと思います。
(文 宮下 哲)

    ◇

角田陽太(かくだ・ようた)
1979年仙台市生まれ。2003年渡英し、安積伸&朋子やロス・ラブグローブの事務所で在籍。2007年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)デザインプロダクツ学科を文化庁・新進芸術家海外留学制度の奨学生として修了。2008年に帰国後、無印良品のプロダクトデザイナーを経て、2011年YOTA KAKUDA DESIGNを設立。武蔵野美術大学および東洋大学非常勤講師。
http://www.yotakakuda.com/

角田陽太さんの愛用品は下のフォトギャラリーへ

昭和初期の建物に惹かれて書店を 森岡督行さん

一覧へ戻る

100%自己表現した、シンメトリーな空間 南貴之さん

RECOMMENDおすすめの記事