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<18>対照的な二人がつくった唯一無二の場所

  

 古い雑居ビルが密集している神田。昭和の時代からほとんど変わっていないような街並みは、訪れる人をほっとさせる。「TE TO KA(手と花)」がある神田司町もそんな風景の一角にある。

 店を切り盛りするのは、オーナー兼店長の小林千絵子さん(43)。神田や本駒込で雑貨店の店長をしていたが、知り合いから「安く貸すから、この場所を使ってみない?」と声をかけられたのがきっかけで、自分の店を持つことになった。

 もう一人、この店に欠かせない存在が、小林さんのシェアハウス仲間の手塚敦嗣さん(46)。デザイナーで、アートに詳しく、古本や古道具が好き。そのセンスに全幅の信頼を置く小林さんは、手塚さんに店づくりへの協力を持ちかけた。

「手塚くんはものすごく頑固で口は悪いけど、センスはいいし、モノを見る目があるんです」

「TE TO KA」が入っている建物は、築90年という年代物。1階は製紙工場の倉庫として40年以上使われた後、しばらく放置されていた。上下水道すら通っていない雑然とした空間だったが、手塚さんが数ヶ月かけて大規模なリノベーションを行い、新たな風を吹き込んだ。

「はじめからデザインを決めていたわけではなく、窓や引き戸などの古い建材を探してきて、それに合わせて自分たちの手で作っていきました」

 古民家のような引き戸や飾りガラスがはめ込まれた入口を入ると、店内の中央には使い込まれた大きなテーブルやアンティークの椅子が置かれている。片側の壁面には古本がぎっしり詰まった本棚があり、もう片側にはギャラリースペースとして使われる白い壁が広がっている。空間の隅々に手塚さんのセンスが光る。

「でも、小林さんが派手な色使いのファンキーなものが好きで、彼女が変な人形とかを置こうとすると、『お前、超ダサいからやめろ』って怒ったりすることもあります(笑)」
 ギャラリースペースではアーティストの企画展を行い、週末にはトークイベントやDJパーティーなども開催している。

「正直儲からないし、もうやめたいと思ったこともあるけど、モノづくりに携わっている作家と出会い、本音でしゃべれるのが面白いんです」

 店の空間作りやギャラリースペースの方向性を決める手塚さんに対し、小林さんは接客やキッチンの担当。小林さんの明るい笑顔は、場をまるで花が咲いたようにパッと華やかにしてくれる。話をすると、その朗らかさに癒されて店に通いたくなってしまう。小林さんの人を和ませる力は、きっと、天性のものなのだろう。

「たまたま通りかかった人や近所の人がお店に入ってくれたら、うれしくなって『なんでこのお店に来てくれたの?』ってつい話しかけちゃうんです。いろんな人がいて、すごく面白い!」

 クールで独特の審美眼を持つ手塚さんと、いつも明るく、“おかん”のような懐の深さを持つ小林さん。まるで正反対な二人の化学反応が、「TE TO KA(手と花)」という唯一無二の空間を形作っている。

(次回は7月9日に配信予定です)

■オススメの3冊

  

『WIN-WIN』(サマタマサト)
5月に個展を行っていたアーティスト・サマタマサトさんのビジュアルブック。「うちで初めて作ったブックレット。アート作品を買うのは敷居が高くても、こうした本なら気軽に手に取ってもらえます」

『babaghuri』(ヨーガン・レール)
 ファッションデザイナーのヨーガン・レールが、長い歳月をかけてインドの北西部で拾い集めてきた石の写真集。「この本は最高にかっこいい!」

『SLOVAK FOLK ART』(Rudolf Malian)
 かつてのチェコスロバキアの刺繍や民族衣装などの美しい文様や、民族衣装を身につけた人々の古い写真などが収録された大型本。「デザイン好きな人におすすめ。古いけど、すごくいい本です」

(写真 石野明子)

    ◇

TE TO KA
東京都千代田区神田司町2-16 楽道庵1F
03-5577-5309
http://tetoka.jp/

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

<17>渋谷駅裏、エッジの効いた古本屋

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<20>珈琲とチーズケーキと本で優雅な一人時間を

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