あゆみ食堂のお弁当

<6>脳梗塞を患った、一人暮らしの母へ

  

<依頼人プロフィール>
釼持(けんもつ) ゆかりさん 40代 女性
アメリカ ワシントン州在住
会社員

    ◇

私の家は祖母、両親、子ども4人の7人家族でした。自宅の1階で化粧品屋をやっていて、父と母は元旦を除く1年364日、朝から晩まで忙しく働いていました。

そんな中でも私が高校生の頃、母は毎日お弁当をこしらえてくれました。プラスチックのタッパーにご飯と梅干しとゴマ、おかずはソーセージと卵とその他1品という簡素なものでしたが、私は大好きでした。その頃はまだ子どもで、母の苦労がまったくわかっていなかったのでしょうね。「お弁当箱は毎日ちゃんと出して、洗っておいて!」という母の言いつけさえ守れず、口うるさい母を面倒くさいなと思っていました。それでも母はお弁当を作り続けてくれました。

私が長女だったからかもしれませんが、母はしつけに厳しく、いつも怒っている印象しかありませんでした。でもひとつだけ、今も忘れられない思い出があります。

私が高校3年生のとき、1年間のアメリカ留学をする夢が叶いました。が、渡米前に父が交通事故にあい、生死の境をさまようことに。当然のことながら親戚全員が「こんなときにアメリカに行くなんて、ありえない!」と反対しました。そんな中、母だけが「いや、この子はアメリカに行かせます。この子の人生は親のものとは違いますから」ときっぱり主張。力強くアメリカへと送り出してくれました。母の決断がなければ、私のその後の人生は大きく変わっていたことでしょう。

病気知らずだった母は58歳の若さで脳梗塞(のうこうそく)を患い、左腕から先がマヒする後遺症が残りました。不自由だけど不幸ではないと言いながら、父が昨年脳内出血で倒れて施設に入ってからも、自分は人様の世話にはなりたくないと、持ち前の負けん気で頑張っています。

私は今、子どもと一緒にアメリカで暮らしています。帰省は数年に一度。先の年末年始には4年ぶりに実家に帰り、母のためにごはんを作りました。久々に自分以外の人が作った食事をにぎやかに食べることができて、うれしそうな顔を見せてくれました。

今も昔も、人一倍強くて、やさしいおかあさん。75歳になっても、ひとりでしっかりと生活している姿は、人として尊敬できます。そんな母に、感謝とねぎらいの気持ちを込めて、お弁当を贈りたいなと思っています。

母は千代紙細工や洋裁、フラワーアレンジメントなど工芸や手芸が得意で、繊細できれいなものが大好きです。我が家で「たまごぐちゃぐちゃ」と呼んでいたメニューがあります。絹さやを砂糖と塩で味付けして、卵でとじたものなのですが、それが母のお弁当の思い出の味です。少し添えていただけると、母もきっと喜ぶと思います。

また、片手が不自由なため、どうしたら食べやすいお弁当にできるか、お知恵を拝借できたらうれしいです。

いろいろな野菜でつくる手鞠寿司

手鞠寿司の整形にはラップを使うと便利。ラップの上に具材を敷いて、その上に丸めた酢めしをオン。ラップを巾着のようきゅっと絞れば、きれいなボール型に


手鞠寿司の整形にはラップを使うと便利。ラップの上に具材を敷いて、その上に丸めた酢めしをオン。ラップを巾着のようきゅっと絞れば、きれいなボール型に

<献立>
・手鞠寿司 (しいたけ、空豆、スモークサーモン、にんじん、菜の花、だいこん)
・イサキの西京漬け焼き
・みょうがの甘酢漬け
・絹さや入り卵焼き

<お弁当を作った大塩あゆ美さんのコメント>
いつでも家族のことを大切に考え、支え続けてくれたお母さんへ贈るお弁当。

繊細な手仕事や、美しいものが好きだということと、手が少し不自由だということで、食べやすくて見た目の美しさでも惹かれる手毬寿司のお弁当を作らせていただきました。今回使った野菜以外にも、今は様々な色や形の野菜が出回っているので、ぜひ使ってみていただけたらと思います。手鞠(てまり)寿司は、それぞれの具材を別々に下ごしらえしなくてはならず、やや手間がかかりますが、その分作り手の愛情が伝わるものです。

おかずに入れた卵焼きには、思い出の味“卵ぐちゃぐちゃ”のイメージで細かく切った絹さやを入れて、きれいに焼き上げました。

お弁当箱は手毬寿司の丸い形に合わせて丸いものを選ぶことで、全体の雰囲気が合うように考えました。

日本に帰ってこられた際には、ぜひお母さんへお弁当のおもてなしをしていただけたらと思います。

<献立>手鞠寿司 (しいたけ、空豆、スモークサーモン、にんじん、菜の花、だいこん)/イサキの西京漬け焼き/みょうがの甘酢漬け/絹さや入り卵焼き)


<献立>手鞠寿司 (しいたけ、空豆、スモークサーモン、にんじん、菜の花、だいこん)/イサキの西京漬け焼き/みょうがの甘酢漬け/絹さや入り卵焼き)

まあるい手鞠寿司をまあるいお弁当箱に詰めたら、なんとも美しいたたずまいに。白木の素材を選ぶことで、手鞠寿司の華やかな色をいっそう際立たせました


まあるい手鞠寿司をまあるいお弁当箱に詰めたら、なんとも美しいたたずまいに。白木の素材を選ぶことで、手鞠寿司の華やかな色をいっそう際立たせました

(ライター/小林百合子)

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