上間常正 @モード

エレガンスに誇りと情熱 「サプール」の男たち

淡いグリーンと黄色、芥子色の組み合わせ


淡いグリーンと黄色、芥子色の組み合わせ

スーツの着こなしはみな個性的


スーツの着こなしはみな個性的

街を歩くと子供たちも寄ってきて声をかける


街を歩くと子供たちも寄ってきて声をかける

『サプール ザ ジェントルメン オブ バコンゴ』(ダニエーレ・タマーニ著、青幻舎)


『サプール ザ ジェントルメン オブ バコンゴ』(ダニエーレ・タマーニ著、青幻舎)

 アフリカのコンゴで「サプール」と呼ばれる、高級ブランドのスーツに身を包んで街を練り歩くおしゃれな男たち。去年12月、NHKのドキュメンタリー番組で取り上げられ、日本でも話題になっている。コンゴといえば、フランスやベルギーなどの旧植民地で独立後も激しい内乱など長く続いたイメージが強い。番組をたまたま見ていたのだが、彼らの歴史もそれと同じくらい長いことを知って、深く感じることがあった。

 まず驚いたのは、彼らの装いぶりの見事さだ。着ているのは主にカラフルなジャケットとパンツで粋な帽子をかぶり、パイプをくわえるか手に葉巻、ステッキ。もちろん靴もとびっきり高級で、J.M.ウエストン、ジョン・ロブといったところ。長身でスタイルのよい男性が目立つが、年齢なりにやや太めでも着こなしでとてもカッコよく見える。

 色使いもピンクや黄色、グリーンなどと派手だが、同系統の色の組み合わせで、それも3色に限るのが決まり。赤道近くの蒸し暑い気候なのに、ネクタイをきちんと締めている。基本は1960年代のメンズのクラシックスタイルのようだが、何人並んでいてもみな違っていて個性的に映る。

 ちょっと目にはラスベガスやハリウッド辺りのクラブで見かけそうなスタイルだが、よく見ると印象はまるで違う。動乱続きで貧しいコンゴの町並み(彼ら自身も決して裕福とはいえない)という背景が違うからではない。彼らの表情や、派手めな仕草にしても、エレガントでかつ奥に何か深い精神性を感じさせるからだ。

 サプールとはどんな意味なのか? コンゴには「おしゃれで優雅な紳士協会」(フランス語の頭文字を取った通称SAPE=サップ)という組織があって、協会の理念を体現するのがサプールなのだという。かつての植民地時代の宗主国フランス式のエレガントスタイルが基本なのだが、底に流れる精神はむしろ19世紀はじめの英国に現れた「ダンディー」たちに近いだろう。

 今月出版された写真集『サプール ザ ジェントルメン オブ バコンゴ』(ダニエーレ・タマーニ著、青幻舎)によると、サプールの特徴は外見に気を配る以上に、紳士のルールを身に付けること。礼儀や優しさを何よりも大事にしようとすることだという。「サップとして、この地に生きる人々、そして天の神とともにあること」「暴力をふるわないこと。傲慢にならないこと」などと定めた「サップの十戒」を紹介している。

 コンゴの独立は1960年だった。初代サプールともみなされるコンゴ人マツワは、20年代にフランスからコンゴに戻り、独立運動に力を尽くした国民的英雄といわれた。外国の権力や暴力に屈しないサップの、非暴力による抵抗精神の伝統は、絶えることなく守られてきた。その姿勢が、完ぺきなおしゃれで権力に抵抗した英国ダンディズムのそれと似ているように思える。

 サップは誰にでも門戸を開いているが、一人前のサプールになるのには厳しい鍛錬と周りの承認が求められる。まだ若いサプールの一人ミシェルは、「コンゴのサプールは、三度の食事にありつけなくても幸せなのです。しかるべき服を着ることは精神を養い、身体を幸福で満たしてくれるから」と語っている。1933年に逮捕されたマツワは、白いシャツに三つボタンのブレザーをきちんと着ていたという。

 サプールたちは高価な服を買うために懸命に働いて貯金し、週末にはたっぷり時間をかけて盛装し、誇りをもって街に繰り出す。人々はそれを見て賞賛の声をかけ、結婚式や葬式、記念パーティーなどにも招待される。戦争や時代の激動・災難期にはファッションが姿を消すのが歴史の通例だとすれば、コンゴのサプールはとてもまれな例外なのだと思う。そして何やら明るい希望も与えてくれるようにも思えるのだ。

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PROFILE

上間常正

ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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