ファッショニスタの逸品

100%自己表現した、シンメトリーな空間 南貴之さん

南 貴之さん(撮影 山田秀隆)


南 貴之さん(撮影 山田秀隆)

表参道と原宿にほど近い路地裏の一角に「グラフペーパー」という、今年オープンした話題のセレクトショップがある。迷路のように入り組んだ場所にあるため、探している時の期待感とたどり着いた時の達成感は格別だ。

ショップに入ってすぐのところに陳列されているグラスコンテナー以外は、いわゆる「商品」がどこにも見当たらない。壁には10枚のキャンバスが等間隔に飾られていて、いったいこのストイックな空間はショップなのかギャラリーなのかと戸惑うばかりだ。

  

実際に店内を歩くと、じつは飾られているキャンバスにはアートとしてだけでなく、別の仕掛けが隠されていることに気付く。キャンバスを前面にスライドさせ、奥から出てきたのは、服や靴などのファッションアイテムだった。訪れる客は目を丸くしながら隠れていたディスプレーの中に好みの商品を見つけるのだ。

  

この不思議なショップをつくったのは、クリエイティブディレクターの南貴之さん。これまでライフスタイル系セレクトショップの先駆けとなった中目黒の「1LDK」で総合ディレクターとして関わり、ブランドのコンサルティングやトータルディレクションなどに数多く携わってきた。ファッションブランドsoe(ソーイ)と手掛ける「ハローズ エクストラファイン」や、移動式セレクトショップ「フレッシュサービス」などの新たな事業展開にも注目が集まっている。

  

「1LDKもそうでしたが、ショップやブランドって、結局クライアントのものですから、彼らを満足させるのが僕の仕事です。でも、この店は100%自分のやりたいことを表現した空間。国や性別、有名無名、和と洋、古いと新しい、すべての対象を排除し、自分の視点だけで商品を並べることをコンセプトにしました」

  

学生時代は絵描きに憧れていた。就職したアパレル会社では、販売にはじまり、バイヤー、商品開発、ショップの立ち上げとすべての業務を経験。独立後は、キュレーションの仕事に関心を持ち、空間デザインも手掛けている。

「やるからにはとことん関わらないと気がすまない性分。仕事を受注する判断基準は、僕自身が興味を持てるかどうか。白黒はっきりしているんです」

  

仕事への厳しいまなざしを見せながら自らをワーカホリックだと言って、はにかむ表情が印象的だ。そのフランクな人柄も周囲を惹(ひ)き付ける魅力なのかもしれない。

  

立体の中で、絵を描くように

――肩書にある「クリエイティブディレクター」とはどんな仕事ですか。

「クリエイティブディレクター」は、訳すと「工夫して人を使う人」ということ。ようは、それぞれの分野に適任者をはめていく仕事です。最近は、空間デザインの設計、施工だけを依頼してくるクライアントもいますが、僕の場合はトータルでブランディングに関わることが大切だと思っています。

――以前から今の仕事に就くことを目指していたのでしょうか。
 21歳でアパレル業界に就職して以来、様々な種類の仕事を休む間もなくこなしてきましたが、約20年経って結果的に、今のような全体を統括する仕事にたどり着きました。現場の職人さんともきちんと意思疎通ができる仕事がしたいと思ったんです。

――クライアントの仕事を受ける判断基準はなんですか。
 僕がやりたいかやりたくないか。すべては、それにつきます。興味の沸かないことには徹底して無関心ですから、人間的にはダメ人間なんだと思いますよ。

――プライベートも同じですか。
 仕事もプライベートも分けることはできないですね。もちろん仕事でつらいことはたくさんありますが、「プライベートの時間がなくてつらい」ということはありません。つねに遊ぶように仕事して、仕事をするように遊んでいます。

――そこまで南さんを惹きつけるこの仕事の魅力とは。
 若い頃はずっと絵描きになりたかったんです。この仕事って、平面ではなくて、立体的な空間の中で、絵を描いているような作業だと思います。もちろん自分ひとりだけはなくて、多くの人が関わる仕事なので、クリエーターやその道の職人の方々と共有しながら前に進むことができるのは、とても刺激的だし面白いことだと思っています。

――影響を受けた人物はいますか。
 誰かに憧れたり、そうなりたいと思ったりすることは、僕には一切ないんですよね。もちろん共感することはありますよ。たとえばハラルド・ゼーマンというインディペンデントのキュレーターがいます。自分の思想に基づいて展覧会をやった最初の人物ですが、キュレーターとかギャラリーのことを調べているうちに彼の存在を知り、僕と考えていることが一緒だと共感しました。

――「グラフペーパー」にも通じる思想ということでしょうか。
 そうかもしれない。この店のシンメトリーの空間などは、自分の思想でバキバキに作り込みましたが、隙間も与えています。たとえばキャンバス部分ははめかえが可能で、アーティストの作品を飾ればまったく違う空間になります。2階の企画展のスペースも含めて、今後どういうふうに変わっていくのか、僕自身も楽しみしています。

――店名の由来を教えてください。
 店名を付けるのが嫌いなんです。どうも名前に支配されてしまう気がして。「グラフペーパー」は、空間がシンメトリーで方眼紙みたいだから、最後の最後にそう名付けました。

――「いい物」をセレクトする審美眼はどうやって養ったのですか。
 けっしてムダな物は買わず、自分の中で使用用途がある「物」だけを、とにかく自分のお金で買うこと。そして、それを実際に使うこと。その繰り返しです。いい物にはオーラのような何かが出ていて、こちらにサインを送ってきている感じがするんです。だから自然に視界に入ってくる。決して霊感的な話じゃなくてね。

――ふだんはどんな物を買われますか。
 しっかり作りこまれている物はすべて好きですね。多くの人は、「これってどうやってできたのか」と、買う前にその過程を知りたがりますが、僕はそのストーリーはあとで知ればいいと思っていて、つねにゴールから物を見ています。そこが人と違う視点かなと思いますね。

――南さんにとって、「いい物」と「愛着が持てる物」とは違いますか。
 ちょっと難しい質問ですね。ただ、僕はときどき物も人間も似ているなと感じることがあります。見た目はいいのに、愛せないとか好きになれない人っていますよね。もちろん逆もあります。自分で言っていて、ちょっと恥ずかしいのですが……。

――小さなショップを作ることに憧れる人が増えています。
 たぶん無尽蔵にお金が欲しい人は、この仕事はやらないほうがいいかもしれない。ある程度の生活ができればいいという考えが前提にあれば、あとは自分の好きなことをして、それに共感してもらえる人を増やす仕事だと思っています。

――不特定多数の人を相手にしているわけでないと。
 でも、もしかしたらそこを越えた何かというのは、僕自身の次なるステージなのかもしれないと思うことがあります。マニアックな部分を商売にしながら、どうやったら自分とは違う感性の人たちにも満足感を与えることができるか。本来はそんなこと考えなくてもいいのですが、僕はあまのじゃくなところもあるので考えたりしますね。

(文 宮下 哲)

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南 貴之(みなみ・たかゆき)

株式会社 alpha代表/クリエイティブディレクター 。1976年名古屋生まれ、千葉で幼少期を過ごす。1996年にH.P.FRANCEに入社、CANNABIS、FACTORY、 Sleeping Forestを立ち上げ、すべてのバイイングやディレクションに携わる。2008年に退社後、株式会社alphaを設立。中目黒の1LDKを皮切りに、1LDK aoyama heights、名古屋1LDK annexなどをプロデュース。ショップのディレクションのみならず、ブランドのコンサルティング、空間デザイン、イベントのオーガナイズ等、ジャンルにとらわれない活動に範囲を広げる。また、自身の自由な表現を目的としたFresh Serviceを立ち上げ、同ユニットとして第1弾となるザ・コンランショップとの期間限定ショップが話題を呼ぶ。今年2月、ギャラリーとしての機能を持つキュレーション型のセレクトショップ「グラフペーパー」をオープン。
http://alpha-tokyo.com/

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