東京の台所

<105>台所をモノであふれさせない極意

〈住人プロフィール〉
主婦・36歳
分譲マンション・3LDK+土間・西武新宿線 武蔵関駅(練馬区)
築年数34年・入居3年・夫(36歳・会社員)、長男(3歳)との3人暮らし
    ◇
 夫は雑誌をよく読む人で、ひとり暮らしの頃からアンティークショップでソファを買うようなモノ好きのこだわり派だ。妻もかつては雑貨店に勤務していたこともあり、雑貨やインテリアには一家言ある。

 そんなふたりが結婚し、賃貸暮らしをするなかで次第に実感するようになった。

 「部屋のスペースには限界がある。管理しきれないと、部屋ってモノがあふれて汚れていくんだな」

 汚れる、という状況について彼女はこう説明する。
 「たとえばアクセサリーもしまいこんで忘れていると、さびたりベタベタしたり艶(つや)がなくなっていたりしますよね。持っているという安心感はあるけれど、使わなければ意味がない。存在を忘れてしまい込むよりは、つねに使うモノだけ持つようにしたほうがいいなって気づいたんです」

 台所も同じだ。野菜も器も使い切れないほどは持たない。器は、客用とふだん用が兼用だ。

「そのうち年齢を重ねたら価値観も変わり、お客様用も欲しくなるかもしれませんが、今はこれでいいなと。その分、普段から少しいいモノを使うことになります。いいモノを少しずつ増やせていけば良いなと思うのです」

 スーパーでは、毎日、その日食べる分の食材だけを買う。

 「冷蔵庫に見えなくなるまで入れたくない。奧から賞味期限切れの食材が出てきて処分するのがいやなので、そこまで持たないようにしようと心がけています。だから米と水とビール以外は買い置きをしません」

 その日食べる分を買う、というルールは徹底していて、毎朝家族でりんごを食べるが2個は買わない。毎日1個ずつ買いにいく。近所にはスーパーが数軒ある。

「その中に、カードで買うとポイントが貯まるひときわ大きな店があるのですが、あるときからそこで買うのをやめました。つい買いすぎてしまうからです。ポイントのためにひとつのところで溜(た)め買いしたりせず、子どもの習い事の送迎や外出の帰りがけに寄れるあちこちの店で、現金で買うようにしています」

 3年前、古いマンションを購入し、フルスケルトンでリノベーションした。スッキリ暮らしたいので、越してからさらに、できるだけモノは少なく、シンプルを心がけるようになった。

 靴やデニムや自転車など、モノの手入れが好きな夫も同様だ。以前は捨てられない人だったらしいが、今は“自分が手入れできるモノだけ”持つようになった。お気に入りでも、奥にしまい込んで使わないようなモノは売ったりして処分する。

 モノが好きなふたりは、欲しいから、好きだからという理由でやみくもに買っていた時代があったからこそ、今、持たない大人のかっこよさに気づいたのかもしれない。

 南から北に風が通り抜ける。リビングダイニングには、風を遮るよけいなものが何もない。風通しがよい空間作りをするには、少しの工夫と心がけが必要である。それは、なんでも少なめに、目に届く範囲の定量を持つということ。さらりとやっているように見えて、これってけっこう難しい──。

>>台所の写真はこちら

東京の台所バックナンバー

PROFILE

大平一枝

長野県生まれ。失われつつあるが失ってはいけないもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話~紙とヒトをつなぐひそやかな物語』(誠文堂新光社)、 『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『昭和式もめない会話帖』(中央公論新社)ほか。最新刊は『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)。HP「暮らしの柄」。
<記事のご感想・メッセージはこちらへ>
http://www.kurashi-no-gara.com/

<104>父秘伝の味噌汁が刻む追憶

トップへ戻る

<106>赤いビールの思い出

RECOMMENDおすすめの記事