鎌倉から、ものがたり。

<27>レンバイ出店の条件は「みんなと仲良くできる人」/デイリー・バイ・ロング・トラック・フーズ

 鎌倉市民にも観光客にも人気のレンバイ(鎌倉市農協連即売所)。朝、地元の農家が採ってきたばかりというクレソンやイタリアンパセリ、真っ赤なトマトに青々としたピーマン。昭和の香りが残る場内に、旬の鎌倉野菜が並ぶ眺めには、いつもワクワクさせられる。
 一つ二つ、と野菜を買い足しながら、場内の一画にある「パラダイス・アレイ」で天然酵母パンを選ぶのもよし。隣の「鎌倉しふぉん」の行列に並んで、ふわふわのシフォンケーキを買うのもよし。手作りの服と布雑貨の店「nui-nui 1st(ヌイヌイ・ファースト)」で、麻のザックを品定めするのもよし。
 今年4月、そんな楽しいレンバイの中に、新たにデリカテッセンのコーナーが加わった。フードコーディネーターの馬詰佳香(うまづめ・かこ)さん(51)が、スタイリストの岡尾美代子さんとともに主宰する「DAILY by LONG TRACK FOODS(デイリー・バイ・ロング・トラック・フーズ)」だ。
 馬詰さんも、岡尾さんも、長くライフスタイル業界で活躍し、ともに根強いファンを持つ。そんな二人が由比ヶ浜海岸に近い若宮大路沿いに、1号店である「LONG TRACK FOODS(ロング・トラック・フーズ)」を開いたのは2009年。今から6年前のことだった。
 湘南の海沿いで、昭和時代の建物を活かしたオンリーワンショップやカフェが町の話題になっていたころ。雑誌で人気抜群の二人が開いたデリカテッセンは、さり気ない空間にそこでしか買えないオリジナルの品が並び、「さすが」と多いに話題になった。
 しかし、「いえ、何かを狙ったとか、そういうことはまったくないんです」と、仕掛け人の馬詰さんは、はにかみながら話す。
「私が住んでいた家の隣に、小さなお店のスペースがあり、そこがしばらく空いていたんです。そのころ、すごくおいしいピクルスを作る友人が近くにいて、彼女に『あそこでデリカテッセンなんて、どうだろう?』と、声をかけたら、『いいね』となり、さらに岡尾さんにも声をかけてと、その場の成り行きで決めたような話でした。だから計画性はゼロなんです」
 おっとりとした口調の馬詰さんから経緯を聞くと、肩から力が抜けていく。
 由比ヶ浜にロング・トラック・フーズを開く前から、鎌倉の海沿いで自身のアトリエ「ボーンフリー・ワークス」を主宰していた。このアトリエは「ハンモックの販売所」――どうしてここで、ハンモックが出てきますか?
「山梨でハンモックを作っている人がいる、と聞き、直感で『会いに行かなくちゃ!』と、お話をうかがいに行ったんです。そうしたら、ハンモックライフは海にもぴったりだ、とピンと来まして」
 そもそも馬詰さんは自他ともに認める「物件好き」。なんと、これまでに18回、引っ越しを経験しているという。決まりごとにとらわれず、身軽に移動する感じは、ハンモックが持つ自由さにも一脈通じている。
 そんな「物件好き」にとって、レンバイはまた格別な愛着を持てる場所だ。
「実は11年前、『ヌイヌイ』の店主、藤井三枝子さんにレンバイの物件情報を紹介したのは私なんです。『レンバイに空きが出ているから、お店やってみたら?』って、長野にいた彼女を鎌倉に呼んじゃいました」
 以来、毎週水曜日はヌイヌイの店番。そこで親しくなった不動産屋から今年、「また物件が空くから、応募してみたら?」と声をかけられて、「デイリー~」の出店にいたった。
「キャッチしたら即、始める。お金は二の次にして始める。後から大変なんですけどね」
 馬詰さんは、また恥ずかしそうに笑う。レンバイ出店の条件には、「市場の人と仲良くできる人」という項目があるという。何だか、とても納得できる。

(→後編に続きます。)

(次回は7月24日に掲載する予定です)

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PROFILE

  • 清野由美

    ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。在学中、英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

  • 猪俣博史(写真)

    1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

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