花のない花屋

今度は私が贈る番 いつも見守ってくれた父へ

〈花のない花屋〉★

〈依頼人プロフィール〉
高橋奈津江さん 34歳 女性
東京都在住
教師

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母、妹、私はこれまで父からいくつ花束をもらったでしょうか。誕生日のたびに父は決まって花束を贈ってくれました。レストランで食事をするのが常でしたが、父はいつも花束を店に先に送り、タイミングのいいところで花が登場しました。毎年のことなのでみんなもうわかっているのですが、それでもやはり嬉しいものです。

私は父に顔がそっくりで、電車で並んで座っていると、じっと見比べられたり、笑われたりしました。まともな反抗期がなかった私は、それを恥ずかしがることもなく、ずっと父が好きでした。幼い頃から子どもたちを一人の人間として尊重し、どんなにくだらない話でも否定せずに聞いてくれたのです。

父はもともと会社員で、読書やお酒、温泉が趣味です。数年前には還暦を前に早期退職し、住み慣れた東京を離れてはじめての単身赴任に。畑違いの仕事に苦労が多かったようで、数年前に合ったときは、真っ黒なサラサラヘアが素敵だった父は、いつのまにか白髪になっていました。

父は自分がそんな状況だったにもかかわらず、私が数年前にうつ病になったときも、離婚することになったときも、母とともに支えてくれました。

いま3歳になった娘は、私に負けず劣らずじいじが大好きです。顔が私にそっくりで、ということはじいじにそっくりで、本人も「じいじに似ちゃったの?」と嬉しそうによく言っています。

還暦のときにはちゃんとお祝いもできなかったので、これまでの感謝とこれからのエールを込めて、父にお花を贈りたいです。

父は赤やピンクが好きで、昔はピンクのセーターまで着こなしていました。最近は気持ちが沈みがちなのか、洋服も地味になりがちです。お花を見て少しでも元気になって欲しいです。思えば、父に花束を贈るのは初めて。父がどんな顔をするのか今から楽しみにしています。

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花束を作った東信さんのコメント

お父さんが好きだったというピンクや赤を使ってアレンジしました。主役は赤いアマリリスです。アマリリスは生命力が強い花で、僕は特に球根がお気に入りです。いろいろな種類が市場に出回っていますが、今回は花弁の奥がグリーンのものを使いました。

まわりに差したのは、エピデンドラム、ケイトウ、バラ、ナデシコなどの赤系統の花と、芍薬やスパイダー咲きのアスターなどの紫系統の花。難しい色の組み合わせですが、エキサイティングメイヤー(バラ)やアマリリスの中にちらっと見えるグリーンと、まわりのリキュウソウのグリーンが全体を引き締めています。

リキュウソウは動きがあり、かなりボリュームがあります。“家族を包み込むお父さん”というイメージで使いました。

これまでは家族みんなにお花を贈る側だったという素敵なお父さん。初めて娘さんからもらったお花の反応はいかがでしたか?

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(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

今度は私が贈る番 いつも見守ってくれた父へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


弟のような妹のような、大切なきょうだいへ

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