ファッショニスタの逸品

音楽のジャンルを超えて残ってゆく音楽を 田島貴男さん

  


田島貴男さん(撮影 石塚定人)

収録曲は躍動感にあふれた珠玉のポップソングばかりだ。ふとステージ上でギターを弾きながら歌う男のシルエットが目に浮かんだ。オリジナル・ラブの2年ぶりの新作『ラヴァーマン』を聴いていると、ちょうど20年前、ヒットアルバムを連発し、軽快にシャウトしていた田島貴男の姿がオーバーラップする。

オリジナル・ラブは、1991年にアルバム『LOVE! LOVE & LOVE』でメジャーデビューを果たす。デビュー当時からアシッドジャズやニューソウルなどを大胆に取り入れた音楽性が高く評価され、多くのファンを獲得。つねに上質なポップミュージックを生み続けるオリジナル・ラブの存在は、間違いなく90年代以降の日本の音楽シーンを牽引(けんいん)していた。

  

2000年代に入りインターネットが音楽市場を席巻すると、次第にアルバム単位ではなく、好きな曲だけをダウンロードするリスナーが増えていく。業界のシステムが様変わりしていくなかで、田島自身はどう対応すべきか戸惑いながらも自身のオリジナリティーをひたすら追求していった。

「最近になってようやく時代の流れが見えてきたような気がしています。このアルバムを作ろうと思ったのも、絶好のタイミングだったのかも」

  

ここ数年、CMやテレビの音楽番組でオリジナル・ラブの楽曲がふたたび脚光を集めている。20年前のオリジナル・ラブのサウンドをもう一度やってみたい、そう考えた田島は、94年のアルバム『風の歌を聴け』を手掛けたリズムセッションをふたたび起用した。

現在は、バンドを従えて全国をツアー中だ。ここ数年は弾き語りのライブが続いたので、バンド編成は久しぶりなのだと言って、すこし表情をゆるめた。

「いまの時代、音楽で生きていくのはけっこう大変です。若いミュージシャンもみんな必死ですから。でも、それってじつはみなさんの仕事も一緒だと思うんですね」

ミュージシャンである前に、普通の人でありたいと彼は言う。その理由を尋ねると「だって普通の人が聴いて楽しむのがポップスだからさ」。なるほど、言い得て妙である。

  

以前よりも幅広いサウンドになったんじゃないかなと思う

――2年ぶりの新作『ラヴァーマン』がリリースされました。

 昔のオリジナル・ラブのサウンドをもう一度やってみるというところから作り始めたアルバムです。20年前のオリジナル・ラブのサウンドを意識して、ミュージシャンも昔のメンバーを起用してみました。でも結果的には昔とは似て非なるものになりました。まぁ当然なんですけど(笑)。

――なぜ昔とは違うサウンドになったのでしょう。
 あれから20年経って、その間に音楽のこともライブのことも、人生のこともいろいろ学びました。そういう蓄積があるから、自然と以前よりも幅広いサウンドになったんじゃないかなと思います。

――『ラヴァーマン』という言葉もストレートですね。
 今回のアルバムは、勝負作だと思って作りました。「ラヴァーマン」という曲は、もともとラブソングではなかったんですが、ストレートなラブソングにアルバム制作時に書きかえました。曲自体は6、7年前にできていて、手応えがあったからずっと温存してました。タイミングを見計らって録音するなら、アルバム『風の歌を聴け』を一緒に作った、ドラムスの佐野(康夫)とベースの小松(秀行)とやりたいと思っていました。

――特別なアルバムになりましたね。
 今回は歌の録音だけで約3カ月かけてレコーディングしましたが、この長さは僕にとっては異例です。いつもレコーディングは精いっぱい頑張ってやっていますが、今回は特にやるだけのことはやったなあという気持ちがありますね。

――ツアーはアルバムとは何か変えているんでしょうか。
 ここ数年はほとんど弾き語りしながら全国を旅していました。でも今回は久々のバンドツアーなので、気持ちがすごく盛り上がっています。「接吻」という曲も、ほとんどアルバムそのままのアレンジを再現させています。

――最近はテレビの音楽番組で田島さんをよく拝見します。
 僕はシンガーソングライターであり、バンドマンでもあるわけですが、最近はボーカリストとして評価していただけることが増えて、うれしく思います。

――20年前とは音楽を取り巻く環境も変わりました。
 音楽業界のシステムは変わりました。アルバム単位で音楽を制作するのが難しくなりましたが、「でも僕はアルバムを作り続けます」と言ってここまで来ました。2011年に自主レーベルを立ち上げて作ったアルバム『白熱』は、演奏、ミックス、マスタリングまでを全部自分ひとりでやった最初の作品です。

――ヒットチャートに登場する楽曲は聴きますか。
 聴きますよ。ポップミュージックの現場で仕事をしている以上は当然です。ミック・ジャガーもニューアルバムを作る時は、いま流行っている音楽を何百枚も聴かなきゃいけないのがいちばん面倒くさいって、昔インタビューで言ってましたね(笑)。

――最近はブルースにハマっているそうですね。
 4年くらい前からかな。昔はロバート・ジョンソンを聴いても地味な音楽だなあっと思っていましたが、「ひとりソウルショウ」をやりだしてから、初めてカントリーブルースとかをリアリティーのある音楽として聴けるようになりました。そして、自分のイメージしていた「ひとりソウル」のスタイルのオリジネーターが、彼らカントリーブルースマンだったんじゃないかと思うようになりました。それ以降、自分の音楽観も変わった気がします。

――具体的にはどう変わりましたか。
 ブルースが分かると、ロックの成り立ちも分かる。クリームやツェッペリンやストーンズはこういうことがやりたかったんだとか。ブルースをよく聴くようになって、自分の中にあったロックのイメージがよりくっきりと見えるようになりました。

――ここ数年、ギターにハマっているのもブルースがきっかけでは。
 ブルースとジャズですね。僕は、いまはギター以外に物への執着がないんです。前はバイクに乗っていて、オフロードに一時期すごくハマりました。でも、ハマりすぎると音楽をやる時間がなくなっていくので、今はあまり乗れていません。

――曲作りをするうえで、ふだん意識していることは何ですか。
 インプットを意識しています。音楽を聴いて、映画を観て、本を読んで、それがすごく大切なことだと思います。映画は観られる時があれば毎日でも観るようにしています。最近観たのは『マッドマックス』。ほとんどディズニーのアトラクションのようで面白かったですね。

――田島さんの音楽の変遷を教えてください。
 10代の頃はパンク、ニューウエーブにどっぷりでしたね。20代になってヒップホップが盛り上がってきて、パンクなど自分が信じていた音楽の価値が相対的なものだったのかもしれないと思いました。それから「本当にいい音楽ってなんだろう」と自分への問いかけが始まり、音楽のジャンルを超えて伝わってゆく音楽=ポップスをやりたいと思うようになったんです。その問いが今も続いているのがオリジナル・ラブです。

――「ポップス」とひと言で言っても幅が広そうですね。
 流行ってすたれるポップスもあれば、何年も歌い継がれるスタンダードなポップスもあります。やっぱりスタンダードミュージックって、人の心と同じくらい深いんです。そういう音楽はどういう構造になっているのか、作曲者として興味があります。

――今後の展開を教えてください。
 先のことは分からないけど、今後も一生懸命いい曲を作って、いいアルバムを作って、いいライブをやって、楽しい時間を作り出していきたいと思っています。
(文 宮下 哲)
    ◇
田島貴男(たじま・たかお)

1966年東京生まれ。デビュー前の数年間は、オリジナル・ラブのバンド活動と並行して、ピチカートファイブで活動していた時期もあった。1991年、アルバム『LOVE! LOVE! & LOVE! 』でメジャーデビュー。その後「接吻」「プライマル」といったヒットシングルを生んだ。
現在オンエア中のサントリーの角ハイボールのCM曲「ウイスキーが、お好きでしょ」が話題に。この6月に通算17枚目のアルバム『ラヴァーマン』をリリース。往年のファンも新しいファンも十分楽しめる必聴盤だ。新作にあわせて全国ツアーを敢行中。
http://originallove.com/

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