花のない花屋

「短編恋愛映画」を贈ってくれた夫へ

  

〈依頼人プロフィール〉
北 尚子さん 46歳 女性
東京都在住
主婦

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今年の6月で、私たち夫婦は結婚20年を迎えました。彼は私より12歳年上で、映画好きが集まる会で知り合いました。二人の結婚生活を振り返るといろいろなことがありましたが、いつまでも色あせない記憶が一つあります。

つきあい始めて何度目かのデートのときのこと。待ち合わせは六本木の本屋さんでした。私の方が先に着いたので、いつ来るかしら?と自動ドアの方を見ていると、麻のスーツを着て、長いカサブランカの花束をお姫様抱っこした彼が入ってきました。当時、古い映画が大好きだった私。まるで映画のワンシーンのようで、彼の動きがスローモーションのように見えました。

後日、「なぜカサブランカを長いままにしていたの?」と聞くと、「切ってしまったらかわいそうに思えて」と。彼にお姫様抱っこされたことはありませんが(笑)、おそれ多くもカサブランカを自分に見立てての疑似体験をしました。私だけの短編恋愛映画です。

彼は華美なことが苦手で、記念日なども「特別なものはいらないよ」と言っています。でも、結婚20年目のお祝いに、今度は私が彼を映画の主人公にしてあげられたら、と思いました。

彼が特に好きな色や好きな植物はないので、お花の色や種類はお任せします。どうぞよろしくお願いいたします。

  

花束を作った東信さんのコメント

結婚20周年の記念は、「ユリ返し」でどうでしょう。今回はシベリアという種類のユリをメインにアレンジしました。つぼみの数は全部で50以上あります。時間が経つにつれ、どんどん華やかになるはず。

とはいえ、男性への花なのでシンプルに。色は白とグリーンでまとめ、花材も3種類に抑えました。

ユリの間に差したのは、実がついたグリーンキャビアです。沖縄方面で見られる植物で、葉がつやつやしています。大ぶりの花の間にある実がアクセントになっています。

そして全体にぐるりと巻いたのがスマイラックス。蔓性の植物で、ウェディングのアレンジなどでよく使われます。今回はちょっとキザに、ドラマティックな演出をしたかったので、大胆に使ってみました。これからも素敵な夫婦関係が続きますよう!

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

「短編恋愛映画」を贈ってくれた夫へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


今度は私が贈る番 いつも見守ってくれた父へ

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