book cafe

<20>珈琲とチーズケーキと本で優雅な一人時間を

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「転職に失敗し、バイトも見つからない。わずかな貯金を食いつぶしながら、唯一の収入だったネット古書店を実店舗にするしかないと思ったんです。雇用がないなら、自分で創出するしかないでしょう」

 谷中、根津、千駄木は「谷根千」と呼ばれ、下町風情漂う人気のエリア。不忍通りの千駄木駅と根津駅の間の路地を入り、さらに奥まったところにひっそりと店を構えるのが、「結構人ミルクホール」。オーナーの山本晋さん(40)が2004年に始めた店は少しずつ形を変え、こだわりのコーヒーと自家製ケーキが味わえる一人客専用の読書空間へと進化していった。

 食べ歩きと谷根千かいわいが好きだった山本さん。このエリアに店を構えるのは難しそうだと思っていたが、倉庫として使われていたアパートの一角を見つけた。

「ちょっとしたカフェスペースがある古書店はあったけど、喫茶メインの店はない。ないなら自分がやってみる価値はあると思ったんです」

 コーヒーを飲み歩く中で、ここだ!と思った『堀口珈琲』で開業に関する基礎を学び、豆を仕入れることにした。チーズケーキやガトーショコラも山本さんの手作り。チーズケーキに使うのは、オーストラリア産クリームチーズに岩手県くりこま高原の赤玉卵。クリームチーズを一般的なチーズケーキに比べて約2倍入れるので濃厚な味わいになる。

 ガトーショコラも本格派。フランスの老舗チョコレートメーカー・ヴァローナ社のカカオパウダーから練り上げた自家製チョコレートペーストをベースにしている。山本さんにケーキ作りの経験はなかったものの、自分がいいと思う材料を厳選して味をつくり上げていった。いずれも完成度が高く、コーヒーやケーキのためだけに行く価値はある。
「駅から近くもないし、暗いし、安くもない喫茶店。来てもらう以上は、せめてきっちりしたものを作らないと。ちゃんとしたものを出し続ければ、お客さんは来てくれるという自信はありました」

 店は「一人客に特化した読書空間」という紹介でメディアなどに注目されることが多い。オープン当初は古本をたくさんそろえて販売もしていた。しかし、山本さんが客の様子を注意深く観察してみると、古本を買う人は少なく、持参した本に没頭する人が多いことに気づいた。そのため、一人席を増やしてついたてなどを置くようになり、一人客に特化した読書空間へと少しずつ姿を変えていったのだ。

「お店はお客さんからお金をもらっています。お客さんに合わせて店を変えていくのは自然の流れ。はじめから一人客専門を狙っていたのではなく、結果的に一人で過ごす人が残っていっただけなんです」

 コーヒーやケーキのクオリティーにも妥協しないことで飲食店としての価値を高める一方、一人のための読書空間へのニーズを読み取りながら、店のコンセプトの軌道修正も実践してきた山本さん。

「こういう店を作れたのも谷根千という環境あってのこと。わざわざ来てくれるお客さんもいる。先のことはわからないけど、1日でも長く続けたい。10年前でも難しかったのに今の年齢だとさらに厳しく、自分ならもう不可能に近いでしょうね」

■オススメの3冊

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『東京古本とコーヒー巡り』(交通新聞社)
 東京の古書店と、本を眺めてひと息つける喫茶店を紹介した一冊。「私が影響を受けたのはカフェじゃなくて喫茶店。そういった空間が収まっています」

『タモリのTOKYO坂道美学入門』(タモリ)
 日本坂道学会副会長のタモリがTOKYOを激写し、こだわりの坂を紹介。「実用書にして必読書!」

『大ぼったら 駄菓子屋コナモノ大全』(刈部山本)
 川口市の一部地域で“ぼったら”と呼ばれていた駄菓子屋もんじゃを巡る一冊。山本さんが自ら食べ歩き、一人で発行を続けているミニコミ誌。「昔から根付いていた食文化。そこには街角の風景があります」

(写真 石野明子)

    ◇

結構人ミルクホール
東京都文京区千駄木2-48-16
http://kekkojin.heya.jp/

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

<18>対照的な二人がつくった唯一無二の場所

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<21>失恋の痛手から生まれた美意識の空間

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