鎌倉から、ものがたり。

友人たちと作り続ける、静かな最先端/デイリー・バイ・ロング・トラック・フーズ

友人たちと作り続ける、静かな最先端/デイリー・バイ・ロング・トラック・フーズ

>>「DAILY by LONG TRACK FOODS」前編から続きます

 今年4月に、鎌倉市農協連即売所(レンバイ)の中に、デリカテッセン「DAILY by LONG TRACK FOODS(デイリー・バイ・ロング・トラック・フーズ)」を開いた、フードコーディネーターの馬詰佳香(うまづめ・かこ)さん(51)。

 「デイリー~」は、由比ヶ浜にある「LONG TRACK FOODS(ロング・トラック・フーズ」の2号店。ピクルスやディップ、ドレッシング、レモンケーキ、パンケーキミックスと、数々の“シグネチャーメニュー”がある。どれもさりげないパッケージだが、選び抜かれた材料で丁寧に作られていることが伝わってくる。

 その味の背後には、1980年代から今にいたるまで、各時代のライフスタイルを先取りしてきた、馬詰さんならではのセンサーがある。

 1983年に文化服装学院を卒業して、アパレル会社と、インテリア&雑貨会社に勤務した。当時は東京のファッション&ライフスタイルシーンが、ひときわ輝いていた時代。街はクリエイティブなアイデアとニュースであふれていた。

 会社を退職後、90年代には赤坂にあった洋書店「ハックルベリー」の店番をしながら、フード&ライフスタイルコーディネーションへと関心を広げていった。「コーヒーテーブル・ブックストア」と銘打たれたハックルベリーは、店内でエスプレッソを出し、現在の独立系書店ブームの嚆矢となった店。ここには堀内隆志さん、福田理香さん、CHAJINさんと現在のライフスタイルシーンで活躍中の人たちも出入りしていた。

 ケータリングの拠点として、「ボーンフリー・ワークス」を、東京・世田谷の一軒家で立ち上げたのもこのころ。一画をイベントスペースにして、月に2回、ファーマーズマーケットも催した。アパレル会社時代の先輩が長野県で作る有機野菜や、自転車で自家製パンを売る関口ベーカリーのパンなどを取り入れたマーケットは、友人たちに大好評。ケータリングも、決まりきったメニューではなく、その時々の場所やテーマに応じて、「その時だけの食事」を作ることに力を入れた。

 鎌倉に住み始めたのは、ハックルベリーに移った時から。鎌倉方面には、葉山で「サンライト・ギャラリー」を主宰していた美術作家の永井宏さんがいて、永井さんの奥さんが会社員時代の先輩だったという縁もあった。

 以来、鎌倉在住歴は20年。鎌倉から東京に通ったり、東京を拠点にして鎌倉に週末用の家を友人と借りたり、自在に住む場所を変えながら、住んだ家は10軒を超える。

 「興味とともに、どんどん家も引っ越していって(笑)。自分の仕事も一言で言うのは難しいのですが、仕事でいちばん大事にしているのは、『伝える』ことなんです。ただ、私は言葉で伝えることが苦手なので、『行動して伝える』。それで、ここまで来たというか」

 今、ロング・トラック・フーズを手がけることには、実はもっと大きな理由もある。

 「私は70歳を過ぎても、元気なうちは基本的にずっと働いていたいんです。年を取ったからといって引っこんだりしないで、友人たちと手を動かしながら、日々楽しく暮らしていく。そんな人生を、頭の中で描いていて……」

 イメージにあるのは、アメリカ映画の『キルトに綴る愛』。映画ではウィノナ・ライダーが演じる大学院生が、実家の祖母や姉、そこに集まる女性たちと、大きなキルトを作るシーンから、それぞれの物語が展開していった。

「友人たちと何かを作る作業って、あの映画に似ているな、と思うんですね。あ、でも、話しているのは、芸能界のウワサ話とかなんですけどね(笑)」

 それぞれの人生を、ゆるやかに、長く助け合って生きていく。その土台を作っている最中だという馬詰さん。「ロング・トラック(長い走路)」の中心に、「フーズ(食)」がある。

DAILY by LONG TRACK FOODS(デイリー バイ ロング トラック フーズ)
神奈川県鎌倉市小町1-13-10

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PROFILE

  • 清野由美

    ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

  • 猪俣博史(写真)

    1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

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