book cafe

<21>失恋の痛手から生まれた美意識の空間

<strong><a href="/and_w/interest/gallery/bookcafe21/">写真特集はこちら</a></strong>

 東京・練馬区石神井のバス停前にある築約30年のマンション。201号室のドアを開けると、その向こうには異世界が広がっていたーー。

 オーナーの夢野修也さん(33)が約1年半かけて、マンションの一室に独自の空間を創り上げた「bookcafe ORION」。どこか「不思議の国のアリス」を彷彿とさせる、ガーリーな雰囲気のインテリア。その中には、毒のあるオブジェも潜んでいる。室内に置かれたアンティーク家具を一本の線で結ぶと、オリオン座のシルエットが浮かび上がってくるという楽しい仕掛けもある。

 この空間にたどり着くには、メールでの事前予約が必要だ。細部にまで夢野さんの世界観が宿る、すこし奇妙なブックカフェはどうして生まれたのだろうか?

「実はカフェ好きの彼女と別れてしまい、見返してやろうと思ったのがきっかけなんです」

 独特の存在感を放つ夢野さんの口からは、意外な答えが返ってきた。

 駅から遠く、カフェにふさわしい立地とは言い難いが、夢野さんは部屋に差し込む光の美しさにひかれてこの場所に決めた。当初はここに住みながら、頭の中に思い描いた空間を形にしていった。彼女を見返してやると心に決めたものの、スタイリストやインテリアデザイナーなどの経験があるわけでもなく、資金もない。

「はじめは100円均一の店で買ったノコギリやカナヅチを使って床板を貼ったりしていました」

 イメージが思い浮かんでも、どう形にしていいかわからないこともあった。そんな時は周囲の人に相談してヒントをもらい、助けてもらったという。「会話お断り」というコンセプトを掲げた「アール座読書館」オーナーの渡邊太紀(たいき)さんもその一人。夢野さんはこの店のファンで、渡邊さんが店のインテリアを一人で創り上げたことを知って勇気付けられたと振り返る。

「確かにはじめは彼女に対する怒りのパワーに突き動かされていました。でも、必死になって周りの人に『こういうことをやりたい』と相談しながら作っていくうちに、いつの間にか自分の気持ちが浄化されていったんです」

 こうして完成した「ORION」は、フォトジェニックな空間の魅力が口コミで広がり、撮影スタジオとして使いたいという依頼も舞い込むようになった。夢野さんは「ORION」の隣室に「ALMA」という部屋を新たに作り、三鷹に「ユメノギャラリー」をオープンさせ、そこにも「ELMA」という空間を築いた。

 カフェ好きの彼女と別れたことがきっかけで、夢野さんの中に眠っていた美意識が花開き、ブックカフェや撮影スタジオの空間設営へと結びついていった。

「数年後、その彼女から連絡があったんです。よりを戻したいということだったんですけど、お断りしました」

 夢野さんは、飼い犬のユメノを撫でながらにっこり微笑んだ。

(次回は8月20日に配信予定です)

■オススメの3冊

<strong><a href="/and_w/interest/gallery/bookcafe21/">写真特集はこちら</a></strong>

『グランヴィル 19世紀フランス幻想版画 (鹿島茂コレクション)』(鹿島茂)
 フランス19世紀を代表する挿絵画家グランヴィルの、日本初の作品集。「ORIONやILMAなどの空間を作る時、グランヴィル作品の色のバランスなどを参考にしました」

『ギャシュリークラムのちびっ子たち』(エドワード・ゴーリー)
 AからZまでが名前の頭文字についた子どもたち。登場と同時に次々と怪我や死に遭う物語。「エドワード・ゴーリーの独特の世界観や物語性がすごく魅力的です」

『ジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス』(にしのあきひろ)
 漫才コンビ「キングコング」のツッコミ担当でありながら、絵本作家として活躍するにしのあきひろさんの絵本。「ご本人よりも先に作品に出合い、三鷹のギャラリーで原画展を開催させていただきました。ヒール役に見られがちですが、作品にはやさしい気持ちや本当の気持ちが宿っています」

(写真 石野明子)

    ◇

bookcafe ORION
東京都練馬区石神井台8-22-1
ヴァルトハイム201号室

>>写真特集はこちら

>>book cafeまとめ読み

PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

<20>珈琲とチーズケーキと本で優雅な一人時間を

一覧へ戻る

<22>「リビングシェア」の体験宿した空間

RECOMMENDおすすめの記事