花のない花屋

人生を変えてくれたタンゴの先生へ

  

〈依頼人プロフィール〉
和田桂子さん(仮名) 60歳 女性
東京都在住
会社経営者

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同い年の友だちと会社を設立して26年あまり。脇目もふらず、ひたすらここまで走り続けてきました。9年前に突然、共同経営者の友だちは病で亡くなり、その数カ月後には父が亡くなりました。もう会社を辞めようかと悩みましたが、なんとか今にいたるまで続けてこられました。

その後、母も病に倒れ、姉と二人で介護を続けてきましたが、4年前に母が亡くなったときは、これからどう生きようかと思い悩んでいました。仕事と介護に明け暮れていたので、特に趣味もなく、人間関係も偏りがちだったのです。そんなときに出会ったのが、アルゼンチンタンゴでした。

スポーツジムでお会いした先生がアルゼンチンタンゴのスタジオを始めるというので、軽い気持ちで行ってみたのが始まりです。アルゼンチンからいらしている男性の先生と日本人女性の先生に踊りを教えてもらい、瞬く間に引き込まれました。

アルゼンチンタンゴは、踊りを介したコミュニケーションです。音楽を感じ、相手の気持ちを感じ、踊りを通して自分の気持ちを表現する。ちょっとした力の入れ加減や視線でコミュニケーションできる素敵な踊りです。

アルゼンチンの先生からは、「1940年代のタンゴがいいですよ。同じ音楽家の作品を1カ月ずつ聞いてみて」とアドバイスをもらいました。今では毎日タンゴを聴き、週3回は踊っています。タンゴが私の生き甲斐です。先生からは、単なるステップだけでなく、踊りとはいかなるものか、ということを学んだ気がしています。

タンゴを通じて人間関係も広がりました。人生の晩年を迎えた今、新しい出会いがあることに幸せを感じています。

今まで、仕事以外何も興味がなかった私を、すばらしいタンゴの世界に誘っていただいた二人の先生に、「ありがとう」を込めてお花を贈りたいです。アルゼンチンの先生は、今は亡きお母様の名前、ROSAにちなんでバラがお好きなようです。女性の先生は可憐な方です。どんなお花でもかまいませんが、私に「人生最高のプレゼント」をくれたお二人に、心からの感謝の花束を贈りたいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

テーマはずばりタンゴです。タンゴのリズムが聞こえてくるような、ステップが脳裏に浮かんでくるような、動きのあるアレンジを目指しました。

まず目にいくのは、まっ赤なダリアと、ふわふわとした長い植物。これはアマランサス、和名でケイトウと呼ばれるものです。

他に使用したのは、バラやエピデンドラム、カーネーション、シモツケなど。全体的に情熱的な赤い花でまとめました。ペアダンスを踊るお二人の先生を意識して、2種類ずつ差しています。

リーフワークはユーカリの葉。ところどころにユーカリの花もあります。今はまだ実が多いですが、どんぐりの帽子のような上部がぱかっとはずれ、そこから花が咲くんです。咲き始めたら全体の雰囲気も少し変わるはず。お二人の反応はいかがでしたか?

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

人生を変えてくれたタンゴの先生へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


療養中の大切な優しい上司に

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これから花咲くつぼみだった姪へ

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