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<23>漫画4千冊、お好きなだけどうぞ

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「ここにある漫画、好きなだけ読んでいいよ」

 と言われたらなんて幸せなことだろう! そんな夢をかなえられる場所が鎌倉にある。

 店の名前は「読ム読ム」。由来は「おいしい」という英語の口語である「yumyum(ヤムヤム)」から。音の響きが愛らしく、店の優しい雰囲気になじんでいる。オープンは2013年12月。店内の壁一面に備え付けられた棚には漫画がぎっしりと並び、天井で交差するH型の鉄骨にまでひしめく。ここでは、約4千冊もの漫画を自由に手に取って読むことができるのだ。

 鎌倉で生まれ育ったオーナーの久宗明子さん(41)は、鎌倉の老舗ドイツベーカリー「ベルグフェルド」で約20年間働いていた。いつしか自分の店を持ちたいと考えるようになり、この場所を見つけた。

「カフェに何か特色を出したいと考えた時、『家に死ぬほど漫画がある!』って思ったんです」

 久宗さんだけでなく、家族や親戚みんな、漫画が大好き。久宗さんは小学生の頃、『ガラスの仮面』や『生徒諸君!』、『有閑倶楽部』などに夢中になり、中学時代は『ベルサイユのばら』の世界に酔いしれた。兄の影響で少年漫画にも手を広げ、父が持っていた手塚治虫の作品も数え切れないくらい読んだ。そうしていつしか自宅に“漫画部屋”ができるまでになった。

「ここで眠っている大量の漫画に、いつか日の目を見せてやりたくなったんです」

 久宗さんは、部屋で眠っていた大量の漫画を店の壁一面の棚に並べていった。上の方には懐かしの少女漫画、中央部には男女を問わず読める漫画、下の方には少年漫画。キッチンのあるカウンターの隣には、「美味しんぼ」や「深夜食堂」など、食にまつわる本を並べた。棚のところどころに、手書きのおすすめコメントも挟み込んでみた。

 店を開くにあたり、「女性が一人で気軽に来られるカフェになったら……」と思い描いていたという。漫画があれば一人でも入りやすいだろうと考えたからだ。

「一人だとついスマートフォンを触っちゃうけど、そんな時に漫画を読みながら時間を過ごしてもらえたらいいなと思って」

 ところが、意外なことに男性の一人客が多いという。手塚治虫の作品や「のらくろ」など、古い作品を見つけて喜ぶ50代以上の人たちも見かけるとのこと。漫画の吸引力は老若男女を問わず強力なようだ。

 香り高いコーヒーやケーキ、カレーやスパゲティミートソースなど、カフェメニューも充実しているので、長居できる環境は整っている(90分ごとにワンドリンクのオーダーが必要)。

「鎌倉って漫画喫茶がないんです。お店のオープンから閉店まで約7時間ずっと漫画を読まれた方もいらっしゃいました。それが最長記録です(笑)」

 自然光がたっぷりと差し込む明るい雰囲気の中で漫画の世界に浸っていると、幸せな気持ちに満たされる。それは、「漫画を好きなだけ読める」ということだけではなく、昼下がりに家でごろごろしながら漫画を読みふけっていた、あの懐かしい子ども時代の記憶とよく似ているからだろう。

(次回は9月17日に配信予定です)

■オススメの3冊

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『重版出来』(松田奈緒子)
新人編集者・黒沢心を中心に、漫画や出版物に関わる人々の情熱や奮闘ぶりをリアルに描く。「自分の仕事に正面から向き合っているところがすごい。仕事モードの自分にぴったり」

『火の鳥』(手塚治虫)
不老不死の火の鳥を通して、様々な時代の人間たちの苦悩と運命を壮大なスケールで描いた名作。手塚治虫がライフワークとして描き続けた。「漫画を超えて、哲学のよう。読むたびに新たな発見があり、読後の充実感が大きいんです」

『ガラスの仮面』(美内すずえ)
言わずと知れた、70年代半ばから続く未完の大作。貧しい家庭で育った北島マヤが女優の才能を開花させ、成長する物語。「抜群の面白さ! はじめは絵のかわいらしさにひかれたけど、マヤのめげない姿が好き」

(写真 石野明子)

    ◇

漫画の多い喫茶店 読ム読ム
神奈川県鎌倉市大町1-2-19
http://yomuyomunomunomu.com/

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

<22>「リビングシェア」の体験宿した空間

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