花のない花屋

親不孝な息子から母への還暦祝い

  

〈依頼人プロフィール〉
上田陽一さん 33歳 男性
東京都在住
会社員

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今年の6月、母が還暦を迎えました。その少し前、「還暦祝いどうしようか?」と、長男の私を含めた子ども3人で相談している矢先、母から「明日電話していい?」とのメールがきました。「少し長くなるのだけど」という前置きがあったせいで、「もしかして還暦を機に熟年離婚?」などと、色々な妄想にかられていました。

いざ話を聞いてみると、耳の下にしこりがあり、5月末に病院へ行ったとのこと。検査をしてみると、耳下腺(じかせん)腫瘍という腫瘍がみつかり、6月末に手術が決まったという報告でした。「お父さんの悪口ばかり言っていたから、罰が当たったのかしらね」と、母はいつもと変わらぬ調子。でも、まったくもっておめでたくない“還暦祝い”でした。

聞き慣れない病名に不安にかられ、すぐに調べてみると、発生頻度は10万人に数人の病気とありました。良性、悪性の割合は10対1ということで、ひとまず安心しましたが、良性と確定したわけじゃないし、顔面神経付近の手術になるため、術後一時的に部分麻痺が発生してしまう可能性もありました。

忙しさにかまけて、なかなか親の顔を見に実家へ帰らない私への罰かもしれない……。せっかくおめでたい還暦を迎える月なのに、家族一同不安な日々を過ごしました。

そして7月末、お陰様で手術は無事に成功しました。腫瘍も良性で術後の経過もよく、これまで通りの暮らしが戻りました。ほっと一息です。術後の傷は痛々しく感じるものの、元気な母の姿を見ることができて本当に安心しました。全然おめでたくない“還暦祝い”を強制的にプレゼントされてしまった母に、親不孝者の長男から本当の還暦の祝いと手術の成功を祝して、東さんのお花を贈りたいです。

母は専業主婦で、宝塚など華やかなものが大好きです。花も好きで、玄関先にはいつも生花を飾っています。ユリやフリージア、花びらの少ない黄色いバラなど清楚な感じの花が好きとのことです。夏らしい、明るいお花をお願いします。

  

花束を作った東信さんのコメント

お母さんへ贈る還暦のお祝いなので、華やかにまとめました。ユリがお好きとのことだったので、赤紫のユリ、オレンジのヒメユリやモントブレチア、イエローのリコリスなど、何種類もユリ系のお花を入れています。もちろん、還暦なので赤いカーネーションやエピデンドラムも忘れずに。

リーフワークは茶色の斑が入ったコンパクターの葉でまとめました。明るいグリーンにすると葉が目立ちすぎるので、少し抑え気味の色を選んでいます。

息子さんからお母さんへ、というのがポイントですね。こういうときは、遠慮せず、「花をあげました!」という感じのアレンジがぴったりです。華やかな方がよろこびも増すというもの。いつまでもお元気で長生きしてください。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

親不孝な息子から母への還暦祝い

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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