このパンがすごい!

さりげなくスゴ技、「魂のフランス人」 / ボネダンヌ

ボネダンヌ(東京)

 アッシェ・パルマンティエ。耳慣れぬ、舌を噛みそうな単語。でも、一度味を知るや否や強烈にインプットされ、何度でも発音したい言葉に変わる。マッシュポテトやひき肉やチーズをどさりどさりと地層のように重ねてオーブンで焼いたフランスで定番のお惣菜。それが、ボネダンヌでパンの上にのっていたときには、後頭部をバゲットで叩かれたような衝撃を受けた。合わぬはずがない、私の食べたいのはこれだった、と。

 どろり焼け爛(ただ)れたチーズの下に潜んだ牛ひき肉とトマトというダブルの旨みを、クリーミーなマッシュポテトとバゲットというダブル炭水化物が2度吸い取り、2度癒す。ポテトは口じゅうにやさしく染み入り、トマトの輪切りはジュースをちょちょぎらせて、フレッシュな酸味で全体にアクセントを与える。そして、底面のパンはオーブンと接触してかりかりのトーストとなって香ばしい。以上のような出演者たちが噛むたびに口の中でくんずほぐれつするバトルロイヤルがこの惣菜パンを食べると展開される。

 興奮した私は「ど、どうやってこんなものを作り出したのですか!」と詰め寄るけれど、「やってみたらおいしかったんで」と荻原浩シェフはクールに答えるだけである。彼のことを「魂のフランス人」と私は呼び習わしている。5年半の間パリで暮らし、パティスリーとブーランジュリーで働いた経験を持つ彼の引き出しにはぱんぱんにフランスが詰まっており、ときおりそれを開けてこともなげにパン棚の上に置いておく。フランスが骨の髄まで染み付いた荻原さんにとっては至って普通のことかもしれないが、私のような変態がそれを発見しては大騒ぎする。

 最近の発見。これもいつから置かれていたのかしれないが、一度それに注目するや否や、見つけたら突進したいほどのお宝と認識されるようになった。名をブリオッシュ・ナンテールという。食パン型で焼いたブリオッシュで、よく知られるブリオッシュの形(あのダルマみたいなのはブリオッシュ・ア・テットというのである)に比べると、表面積が少なくて中身が多い。つまりふわふわのおいしいところをたっぷり食べられるというわけだ。

 バターの香りがすごい、というところで驚くのはまだ早い。このパンをスライスしてみると、あっというまに刃が下まで通り、悶えるようにふるふるとふるえながらぱたりと一切れが倒れる。この物性はなんだ?たまらず噛みつくと、まるで歯ごたえがない。指でつまんでも、さわさわと難なく引き裂かれてしまう。そして実にエアリー。舌にのっかるやいなやじゅわっと勝手に唾液を吸い込んで、勝手に溶け、甘い汁が喉をつたっていく。なんとゆるゆるに生地をつないだことか。まるでたんぽぽの綿毛を集めて作ったようなブリオッシュなのである。

 ボネダンヌのすごいパンはこれにとどまらない。フランボワーズジャムのタルティーヌに、食パンに、マドレーヌ(これはパンではないが買い占めて人に配ったことがある)に…。それは次の機会にまた話をすることにしよう。

ボネダンヌ
東京都世田谷区三宿1-28-1
03・6805・5848
8:00~19:00(月火休)

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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