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<24>「ガロ系」に囲まれ、昭和にタイムスリップ

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 『ガロ系』と呼ばれる漫画のジャンルがある。1960年代に創刊され、独自の画風と強烈な個性を持つ漫画家を発掘し、彼らの作品を掲載していた漫画雑誌「ガロ」から生まれたもの。つげ義春、白土三平、根本敬、蛭子能収、丸尾末広、みうらじゅんなど、数多くの漫画家がここで活躍した。

 JR中央線・阿佐ケ谷駅にほど近く、昔ながらの飲み屋や八百屋などがひしめく細い路地の中にある「よるのひるね」は、その「ガロ系」の作品に出てきそうなたたずまいの店。昭和30年代に建てられ、かつてはバーだった空間だ。古いれんがの外壁や中の様子がうかがい知れない木製のドアなど、独特の存在感を放つ。勇気を出して中に入ってみると、古本や漫画、画集などがあちこちにうずたかく積まれ、洞窟のような空間が広がっている。

 オーナーの門田克彦さん(48)は、「ガロ」の流れをくむ漫画雑誌「アックス」を刊行する「青林工藝舎」などの出版社の委託を受けて書店を回る営業代行業をしていた。

「日中は営業代行の仕事があり、夜なら時間が空いているから何かできるんじゃないかと思って店をはじめたのがきっかけです」

 現在は18時半からの開店だが、2002年のオープン当初は20時頃から店を開けていた。店内の蔵書はもともと門田さんが持っていたもの。仕事柄、「ガロ系」の漫画や画集、サブカル系の本などが多い。

「本のある飲食店といったイメージで、漫画や画集を気楽に読んでもらえればと思っていましたが、特殊な店なのか思ったように人が入りませんでしたね。その後、人から頼まれたりしてイベントをやるようになりました」

 今では、サブカル系のトークショーやライブ、金継ぎ教室など、さまざまなイベントが開催されるようになった。中でも、「ガロ」出身の漫画家・杉作J太郎さんのトークイベントや、昆虫食研究家・内山昭一さん主宰による昆虫食をみんなで作って食べる「昆虫食のひるべ」は、何年も続く人気イベントだ。

 店内には古書の復刻本や新刊書籍が置かれた一角がある。名著にもかかわらず、膨大な出版物に埋もれてしまったものを再び世に送り出したいと考え、同店のひとり出版部門「よるひるプロ」から刊行したものだ。

「出版部門を立ち上げたのは勢いみたいなものです。出版社やデザイナーなどのつながりはあるし、自分で営業もできますし。ひとりでもなんとかなるかなと思って始めたのですが、新刊も含め、10年間で11冊作りました」

 マニアックなイベントの開催や絶版本の復刻、自由気ままに漫画や本が読める場など、さまざまな顔を持つ同店。それは一つのことに縛られない門田さんのスタンスと重なり合う。

「いろんなことをやっている方が自分にとってもやりやすいですね。仕事をしているような気がしないから休みがなくても楽ですし。同じことをずっとやっているとモチベーションが落ちてしまったりしますから」

 昭和の濃厚な空気をそのまま閉じ込めたような「よるのひるね」。この場所とこの空間。一癖ある店の雰囲気自体がまさに「ガロ系」であり、特定の人々を引きつけてやまない。

■オススメの3冊

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『革命屋』(長尾みのる)
キューバ革命の立役者チェ・ゲバラへのシンパシーから描かれた、本邦初のゲバラ・トリビュート作品。「著者の長尾さんは昭和20年代に世界一周の旅に出た人で、中南米びいきの人。構図や色合いがすごくかっこいいんです」

『山のもの山のもの』(初山滋)
童画画家・初山滋さんの寓話(ぐうわ)的絵本。終戦直後に刊行され、入手困難だった作品。「みんな仲良くしようという宣言がまずはじめにあり、切実で説得力のある本。赤字になってもいいから出したいと思った一冊です」

『白百合三代記』(牧美也子)
松本零士さんの妻で漫画家の牧美也子さんによる「星座の女」シリーズの一冊。「戦時中の女性の悲劇を描いた作品。漫画としての技巧が巧みで見事。フランス語版も刊行され、ますます注目される作品です」

3冊はいずれも「よるひるプロ」で販売中。

(写真 石野明子)

    ◇

よるのひるね
東京都杉並区阿佐谷北2-13-4
http://yoruhiru.com/

(次回は10月1日に配信予定です)

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PROFILE

吉川明子

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
https://note.mu/akikoyoshikawa

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