花のない花屋

一人暮らしを始める一人娘へ

  

〈依頼人プロフィール〉
北原まりえさん(仮名) 44歳 女性
広島県在住
会社員

    ◇

私には持病があります。生まれたときから心臓に穴があり、2歳でペースメーカーを入れました。当時は今の2倍以上の大きさだったので、小さな体には大きな負担です。なかなか体に合うものがなく、小学校入学前に何度も入退院を繰り返し、手術を重ねました。手術を失敗したこともあり、「明日は生きられないかも」と言われているような状態が続きました。

それが奇跡的な回復をして無事に大人になり、20歳をすぎてからは、「やりたいことをやっていこう」と心に決め、25歳で海外に飛び出しました。向かった先は、シンガポール。日系の会社の現地採用スタッフになり、社長秘書として働きました。数カ月後にマレーシア勤務となり、そこで今の主人と出会いました。

出産のときは、ペースメーカーの入れ替え時期と重なったため、帝王切開で娘を出産。その後、不整脈になってしまい、さらに子宮筋腫も患い、持病を悪化させる心配があったので子宮は摘出しました。

そんな風にいろいろなことがあった中、すくすくと育ってくれた一人娘が、来年3月に高校を卒業し、進学のために一人暮らしを始めます。将来は航空会社のグランドスタッフになりたい、と言っています。娘とは一緒にショッピングに行ったりする仲で、知人からは「友達同士みたいな親子だね」と言われます。もちろんいつも仲良しというわけではありませんが、彼女は私に未来の夢をくれる存在です。

そんな娘へ、夢に向かって頑張ってねという思いを込めて花束を贈りたいです。彼女は私と同じ中高一貫校に通っています。学校の校花がアヤメなので、ひっそりとアヤメを入れてもらえないでしょうか。良いことも、嫌なこともあった中高生活でしたが、6年間の思い出はいくつになっても支えになっています。娘にもこの気持ちを届けられたら……。また、何があっても側にいるよ、という思いも込めて、お花が終わっても残る植物も加えてもらえるとうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

今回は若い女の子への花束なので、かわいらしさを重視してまとめました。あいにくアヤメは時期が違って使えませんでしたが、その代わり、カトレアやアヤメ科のグラジオラスなど、色や形が似ている花を使いました。

全体的にパステル色を集めましたが、花びらの質感もいろいろなバリエーションを組み合わせています。たとえばフリルのようなカーネーションやバラ、ダイヤモンドリリー、ベルベットのようなケイトウ、小さな丸い花のイエローベル……。スパイダー咲きのガーベラは、細かい花びらを見せたかったので、縦に差しています。リーフワークは葉っぱではなく、シンフォリカルポスという白い実を使い、かわいらしく仕上げました。

残る植物も入れて欲しいとのことだったので、大きな花のような多肉植物も加えています。今回はメインではないので、目立たないようにサイドに差しました。

来年大学へ進学とのこと。楽しいことはこれからいっぱい待っていますよ!

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

一人暮らしを始める一人娘へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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