花のない花屋

初任地で手をさしのべてくれた「母」へ

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〈依頼人プロフィール〉
大木ななみさん 32歳 女性
アメリカ・ワシントン州在住
主婦

    ◇

私は関西出身で、家族や親戚はみんな関西にいますが、栃木県宇都宮市には、もう一人の“母”がいます。

大学卒業後、就職したのは関東の会社。配属されたのは、縁もゆかりもない宇都宮市でした。航空機メーカーだったのでエンジニアが多く、職場のほとんどは男性です。新入社員の上に、友達も親戚もいない初めての土地で、さらに職場は男性だらけ。そんな心細い状況で手をさしのべてくれたのが、地元採用の庶務の方でした。その方の年齢は私の母よりも上。まさか、そこでの出会いがこんなにも深く、長く続くとは思ってもいませんでした。

彼女は面倒見がよく、優しい性格のためにみんなから愛され、頼りにされる方でした。何もわからない私を気遣って、いろいろな面でサポートしてくださったことで、気持ちが救われたのを覚えています。通勤中に交通事故に巻き込まれたときは、遠くにいる両親に代わってお世話をしてくださり、いつしか“母”のように慕うようになりました。

その後、私は東京に異動になり、一緒に働いたのは3年ほどでしたが、付き合いは今でも続いています。昔からフラワーアレンジメントが趣味だった彼女は、私のバレエの発表会には必ずお手製のアレンジメントを持ってきてくれたり、結婚式では私の好きなグリーンをメインにブーケを作ってくださったりしました。

定年退職後はお花の分野で活躍され、カルチャーセンターで講師を務めたり、華展に出展したりと精力的に活動しています。年とともにますます輝いており、私もそんな風に年齢を重ねられたらと憧れます。

私がアメリカに来てからはお会いできていませんが、今度帰国するときは、こちらで産まれた息子を会わせてあげられることが今から楽しみです。

この出会いへの感謝と、“宇都宮の母”へのたくさんのありがとうの気持ちを込めて、お花を贈りたいです。

アレンジは、「人に優しいこと」を大事にしている彼女に合うような、ふんわりとしたイメージでお願いできますでしょうか。薄い紫やスモーキーなピンクが似合うような気がします。 どうぞよろしくお願いします。

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花束を作った東信さんのコメント

今回は、紫やピンクなどやわらかいイメージでとのことだったので、“グルーピング”という手法で、紫からピンクのグラデーションを作りました。

中心に差したのは、2本のパフィオペディラム。これは二人の絆を表しています。その下に敷き詰めたピンクのバラは花弁の多い少し変わった種類です。その隣が、“イザベラ”という八重咲きのユリ。まるで絵に描いたような色合いが美しいカラーは、その名も“ピカソ”という種類です。そしてピンクのグラデーションのダリアから、紫のハイドランジアへつながっていきます。

色の移り変わりを意識したアレンジを作るときは、途中に斑入りやすかし、グラデーションカラーの花を入れるとうまくまとまります。

リーフワークは、シュウメイギクのつぼみと、アセボの葉を組み合わせました。濃い色を使って全体を引き締めています。

やわらかい雰囲気でありながらどこかシックなアレンジ。“宇都宮のお母さん”はよろこんでくれましたか?

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(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

初任地で手をさしのべてくれた「母」へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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http://azumamakoto.com/

PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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