鎌倉から、ものがたり。

3.11こそが、試練の節目だった/バーンロムサイ

3.11こそが、試練の節目だった/バーンロムサイ

>>「ban rom sai(バーンロムサイ)」前編から続きます

 鎌倉にあるオリジナル衣料と小物のショップ「ban rom sai(バーンロムサイ)」は、タイのHIV母子感染孤児たちや、タイ北部の恵まれない環境にある人たちを支援するNPO法人「バーンロムサイジャパン」が運営する。

 そのバーンロムサイのホームページには、いろいろな支援の形が掲載されている。

 一つめが、賛助会員になって継続して寄付をすること。二つめが寄付。三つめが、バーンロムサイのショップで、オリジナルの商品を購入すること。そして四つめが、ゲストハウスに泊まることだ。ゲストハウスとは、チェンマイの工房の隣に建てられた「hoshihana village(ほしはなヴィレッジ)」を指し、ここでは2004年から宿泊客を広く迎えている。

 これら四つの方法を通して得た資金が、タイにある孤児の生活施設「バーンロムサイ」への支援に充てられる。この施設は1999年に名取美和さん(69)が、その後の「社会起業」のムーブメントを先取りするかのように行動を起こし、チェンマイに設立したものだ。

 バーンロムサイが先行した社会活動が、「ソーシャル・アントレプレナーシップ」という言葉とともに、世の中に知られるようになったのは、3.11がきっかけだ。しかしバーンロムサイにとっては、3.11こそが、試練の節目だった。それまでバーンロムサイに向けられていた関心が、3.11を機に、一気に東北の方に行ってしまったからだ。

 バーンロムサイジャパンの代表を務める名取美穂さん(46)は言う。「展示会やコラボレーションの企画がパタッとなくなって、ものすごい危機感に襲われました。そこから、自分たちで稼ぐ仕組みが必要だ、と痛感したんです。かといって、寄付の大事さもずっと変わりません。私たちのようなものづくりで、100万円の利益を出すためには、ものすごくムリをしなければならないこともある。そんな中、100万円を寄付金でいただけることが、どれほどありがたいことでしょうか」

 そう語りながらも、美穂さんの物腰は大らかで、深刻ぶったところが一つもない。

 母の美和さんがバーンロムサイを設立した当初、HIV感染には治療法がなく、子どもたちは次々とエイズを発症して亡くなっていった。2002年に抗HIV薬の供給が始まり、生存率は劇的に改善されて、バーンロムサイでも死亡例はなくなった。しかし今度は、18歳を迎えた子どもたちが、孤児院を出た後、いかに自立していけるか、という課題が浮上した。その時、チェンマイの工房や「ほしはなヴィレッジ」など、彼・彼女たちが働ける場所があることが、継続した支援につながっていく。

 今年、NPO法人の拠点を、逗子にある一軒家に移した。山際にある家は、駅から遠いが、その代わり森の緑に事欠かない。タイのバーンロムサイでは、隣接地に農園を作り、そこで採れる野菜で作る保存食も売っていきたい、とスタッフと夢を語り合っている。

 「衣食住、普通の暮らしをまわしていくことで、社会的に弱い立場の人が支えられる。そんな、小さな循環ができれば、と思っているんです」

 タイでは孤児院を卒業した一期生たちが、都会のレストランなどで働き始めた。その様子を聞くと“弟妹たち”はみんな目を輝かすという。

 「母が率いるタイ人スタッフは、子どもたちのお母さん。私と日本のスタッフはさしづめ、働いて子どもたちを支えるお父さんですね」

 美穂さんの、てらいない笑顔に接すると、私も何かで貢献したいと思う。まずはショップで目が釘付けになった、タイ古布の小物を買いたい。それから、「ほしはなヴィレッジ」に泊まりに行きたい。それが支援につながる、と聞くと、わくわくする。

ban rom sai(バーンロムサイ)鎌倉ショップ
神奈川県鎌倉市由比ガ浜1-10-3

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◆清野由美さんの&w連載「葉山から、はじまる。」が1冊の本になりました。『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)はこちらから。

PROFILE

  • 清野由美

    ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

  • 猪俣博史(写真)

    1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

ガジュマルの木の下の家/バーンロムサイ

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鎌倉を、あじわう。(1)

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