花のない花屋

尊敬する先輩へ、見たことがない花を

  

〈依頼人プロフィール〉
杉村桃弥さん 23歳
北海道在住
会社員

    ◇

私は去年、新卒で花の仲卸会社に就職しました。社員十数人くらいの、街の小さな仲卸です。仕事は朝6時くらいから夜中まで。労働環境が過酷なこともあり、さまざまな理由から職を離れてしまう人も少なくありません。

そんな中、30代の先輩の工場長は、朝4時頃、誰よりも早く出勤し、みんなが帰ってから帰宅しています。いつも周りに気を配り、会社のみんなやお客様から信頼されています。花を買いに来たお客様には丁寧に対応し、珍しい花の注文を受けたときは、あちこちに電話をして必死に探し、いつもひたむきに働く先輩を見ていると、尊敬の念を抱いてしまいます。

なんとなく始めた仕事でしたが、いつのまにか先輩のような人になりたい、という目標ができました。そうはいっても、すぐになれるわけもなく、ただ淡々と日々やるべき仕事をこなしていたのですが、ある日、先輩から「君は人からよいことを吸収して学ぶ力を持っている。そういう人はこれから伸びていく」と、ありがたいお言葉をいただきました。昔から自分に自信がなかった私ですが、先輩の言葉のおかげで少しずつ積極的になり、今は自信を持って仕事に取り組めるようになりました。

そんな尊敬する先輩にも目標があります。以前、仕事中に東さんの本を開いて、こんな話をしてくれました。「この街でも、こんな花を使ってこんな表現をする人を増やしたい。この街の花屋にもお客さんにも新しい風を吹かせたい。僕はそんな手助けをしたい」と。長年固定化されている街の花業界に変化を与えたい、と熱く語る先輩にとても胸を打たれました。

そんな野心あふれる頑張り屋の先輩に、日頃の感謝を込めて東さんのお花を贈りたいです。先輩は、見たことがない花を見ると目がキラキラします。ネイティブフラワー系、カラテア系の葉もの、エアープランツなど個性的で変わった植物、マトリカリアの独特な香りも好きです。先輩が驚き、刺激を受けるような花束を作ってもらえたらうれしいです。

  

花束を作った東信さんのコメント

今回はご希望通り、珍しい植物をたくさん使いました。シンボリックに使ったのは、大きな観葉植物のセローム。そこにパズルのようにたくさんの植物を差していきました。

変わったところでいうと、珍しい種類のユリ、ダリアの球根、プロテア、黒いアガパンサスの実、大根のような形の白とグリーンのモンステラの実、ウツボカズラ、チクチクした見かけのエキナセアやオヤマボクチなど。お馴染みのパフィオペディラムやアロエもあります。

いつもだとアクセントに加えるエアープランツですが、ここでは他の植物が個性的なので、全体をなじませる役になっています。

ネイティブ系と呼ばれる植物は、オーストラリアや南アフリカ原産の植物のことを呼びますが、こういった植物を多く使うと、野性的で、まるで一つの生態系のようですね。

  

  

  

  

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

尊敬する先輩へ、見たことがない花を

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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