鎌倉から、ものがたり。

<33>「本物」のうつわを、普段使いする喜び/うつわ祥見 onari NEAR

 鎌倉駅西口の商店街「御成通り」は、東口の小町通りと並んで、観光客に人気の通り。人々で賑わうカフェや雑貨店とともに、八百屋さん、肉屋さんといった日常の店が息づいているところが大きな魅力だ。風情ある酒屋の脇で、地元の日本酒ファンがさらりと立ち飲みを楽しむ高崎屋本店や、昭和のたたずまいそのまま、おじいちゃんが店番をする駄菓子屋さんなど、賑わいの中で、ふと気持ちがなごむ昔ながらの店も多い。

 その御成通りを駅からまっすぐ歩き、江ノ電の踏切に突き当たる手前。駄菓子屋さんの向かい側に、色彩を抑えた静かな空間「うつわ祥見 onari NEAR」がある。

 文字通り「うつわ」を扱うギャラリー&ショップだが、中に足を踏み入れると、本屋さんか、図書館にでもいるような心持ちになる。うつわがたくさん置かれているのに、なぜかモノに囲まれている気がしない。どうしてだろう、と店内を見まわしてみると、花や小物など余分な装飾が一切ないことに気付く。つまり、潔いのだ。

 それでいて、ギャラリーにありがちなストイックな感じではない。うつわは壁際の棚や中央のテーブルに、手に取りやすい間隔で並べられている。棚は人の目線に合っていて、テーブルの高さはおヘソの位置ぐらい。自然に無理なく手が伸びていく。

「ギャラリーだったら、奥まった雰囲気のある所に出すことが多いのかもしれませんが、私は商店街の中にあるうつわ店っていいな、と思ったんですね。野菜やお肉など、毎日の買い物をする延長で、うつわ店にも気負いなく訪れて、見ていただければなあ、と」

 主である祥見知生(しょうけん・ともお)さんが語る。

「NEAR」で扱ううつわは、すべて現代の作り手のものだ。石田誠、尾形アツシ、小野哲平、村田森、吉岡萬理、吉田直嗣と、うつわ好きにとって垂涎の人気作家たちの作品が、さり気なく、ふんだんに並ぶ。その眺めは贅沢といっていいほど。

「骨董もすばらしいものですが、同時代を生きる作り手の、その時その時の進境とともに、うつわと付き合っていくこと。その価値をお伝えしたくて」

 めし碗、取り皿、大皿、鉢、急須、湯呑……。ガラスあり、刷毛目あり、ブルーの釉薬ありと、個性に彩られたうつわたちだが、店内ではどれもが互いに引き立てあい、全体の調和を乱すことがない。

「違う作り手のうつわでも、全部同じテーブルの上で使えるように、ということは意識しています。だから作家ごとにコーナーを作ることは、あえてしていないんです。一緒に並べて違和感がないのは、それぞれのうつわが『本物』ということなんですよ」

 祥見さんがいう「本物」とは、「何でもなく、しみじみと美しいもの」のこと。買った時がいちばんきれいなのではなく、使っていくうちに、どんどんと味わいが増していく――そんなうつわの作り手と、使い手を結んでいきたい。だから、買い物の途中に立ち寄ったというお客さんが、「大根を買うつもりが、うつわを買っちゃったわ!」と、ほがらかに笑う姿を見ると、本当にうれしくなるという。

 ここに置いているうつわは、「売れるから」ではなく、すべて作り手の人柄に惚れ込んで選んだものばかりだ。作り手の許には何度も通い、食卓を囲みながら会話を重ねて、信頼関係を築いていく。

「作り手のひたむきな心に触れると、私も恥ずかしくない仕事をしなければ、と心から思うんです。かといって、がんじがらめに伝えると窮屈になってしまうので、肩の力を抜いて、チャーミングに、ね」

 そんな「本物」を普段使いすることが、暮らしの喜びにつながっていく。

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PROFILE

  • 清野由美

    ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。在学中、英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

  • 猪俣博史(写真)

    1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

鎌倉を、あじわう。(1)

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<34>掌の中でうつわが、育っていく

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