あゆみ食堂のお弁当

<14>手術前の父に贈る、祖母のふわとろ卵焼きパワー

  

〈依頼人プロフィール〉
寺門知佳さん 33歳 女性
神奈川県在住
会社員

お弁当を送りたいのは祖母と父です。 といっても、祖母はもう9年前に他界してしまったのですが。

私は4歳の時に「血小板減少性紫斑病」という難病にかかりました。血小板の量が極端に少なくなる病気で、当時はご飯を食べるだけで内臓から出血してしまうという状態。そのため食事はできず、点滴で栄養をとることを余儀なくされていました。

小さな私は、「お腹が空いた!」と、泣いて泣いて仕方なかったそうです。そんななか、どうしても食べたいとせがんだのが祖母の卵焼きでした。「おばあちゃんの卵焼きが食べたい!」。あまりの懇願ぶりに堪えきれなくなったのでしょう。「もう最後になるかもしれない」。そんな気持で、祖母は卵焼きを作って食べさせてくれたそうです。幸い病気は完治し、小学校に上がる前には元気に暮らせるようになりました。

初めて教わった料理も祖母の卵焼きでした。たしか10歳くらいのころです。今度は母が入院生活を送ることになり、祖母との生活が始まりました。「お母さんがいなくても、料理ができるように」と、祖母はいろいろな料理を教えてくれました。なかでも、甘くて、とろっと、ふわっとした卵焼きは、今でも私の得意料理の一つです。現在私は実家の北海道を出て神奈川で暮らしていますが、卵焼きを作るたびに、明るくて、ユーモアたっぷりだった祖母のことを思い出しています。

じつは先日、実家に帰った際、父が癌であることを知らされました。まだ早期の発見だったため、手術で切除すれば治る可能性は高いとのこと。でも、父も母も私も不安であることは変わりありません。そんなときは、祖母のことを思い浮かべています。病気だった私を励まし、支えてくれたおばあちゃん。今度は「お父さんを守ってね」。そう、お願いしているんです。

祖母の卵焼きが私の「生きたい!」という力を引き出させてくれたように、父にもぜひ、元気の出るお弁当を贈りたいなと思います。あゆみさんのお弁当を祖母にお供えしたら、きっとパワーを分けてくれそうな気がします。それを父と母と一緒に食べたいのです。
祖母はとても食いしん坊な人で、お土産に何かを買っていくと一番に飛びついて「こんな美味しいもの食べたことない!」と言うのが口癖でした。いつだったか、オムハヤシを作ってあげたら、 こんなモダンな料理があるんだね、とすごく喜んでくれたことを覚えています。

実家は北海道の登別に近い海沿いで、祖母はたらこなどの水産加工物を作る工場で働いていたそうです。いろんな人とおしゃべりするのが好きで、自分で漬けた漬物をよく振る舞っていました。ぜひ祖母と父が「こんな美味しいもの食べたことない!」と言ってくれるような、楽しくておいしいお弁当を作っていただけるとうれしいです。

秋の素材の力とおばあちゃんの思い出と

卵液を流し込んだら、奥にたらこ、その手前に大葉を置いて巻き込んでいきます。見た目にも賑やかな卵焼きは、メインのおかずにしても見劣りしません。


卵液を流し込んだら、奥にたらこ、その手前に大葉を置いて巻き込んでいきます。見た目にも賑やかな卵焼きは、メインのおかずにしても見劣りしません。

<献立>
・栗ご飯
・たらこ巻き卵焼き
・ささげとにんじんのゴマ和え
・秋鮭とキノコの焼き漬け

<あゆ美さんのコメント>
食べることが大好きだったというおばあちゃんの卵焼きのエピソード、おいしそうでたまりませんでした! そんなおばあちゃんの絶品卵焼きを、どんなふうにお弁当に詰め込もうかとずいぶん悩みました。けれど、やっぱり私はおばあちゃんにはかないません!(笑) そこで今回はちょっと変わり種に挑戦。おばあちゃんの故郷の味でもあるたらこと大葉を巻き込んだ卵焼きをメインにしました。

ジュワッと出汁のしみた卵焼きの中に、たらこの風味と大葉の香り。いつもとは違う卵焼きを味わってもらえると思います。

ごはんは栗をゴロゴロと入れた炊き込みごはん。秋鮭と、きのこの焼き漬けも入れて、秋の味覚を詰め込みました。旬の食材には、大地のパワーが詰まっています。秋の素材の力とおばあちゃんの思い出で、お父さんの心と体に元気を届けられますように。

  

おばあちゃんの仏前にお供えしても浮かないよう、シックな漆塗りのお弁当箱を選びました。大きめサイズなので、家族みんなで食べてくださいね。


おばあちゃんの仏前にお供えしても浮かないよう、シックな漆塗りのお弁当箱を選びました。大きめサイズなので、家族みんなで食べてくださいね。

(ライター/小林百合子)

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