ファッショニスタの逸品

「朝ごはん」と「書院造の宿」は共通している 木村 顕さん

木村顕さん(撮影 山田秀隆)


木村顕さん(撮影 石塚定人)

「2拠点居住」が注目を集めている。地震や台風など、ここ数年の自然災害は家だけなく町そのものに壊滅的な被害をもたらすため、リスクマネージメントという観点から、従来の定住型を見直そうとする人が増えているという。
「生活拠点はもっとカジュアルに変化していいと思う」。そう語るのは、建築家の木村顕さん。

  

栃木の日光では宿泊施設「日光イン」を、また東京・青山では、2カ月おきに国を変えながら世界の朝ごはんを提供する人気カフェレストラン「ワールド・ブレックファスト・オールデイ」を経営している。つまり彼自身も、日光と東京の2拠点居住の実践者なのだ。

  

「9年前に日光で宿泊施設をオープンしたんですが、東日本大震災の影響で客足がめっきり途絶えてしまった。そのとき、このままではいけないと考えたんです。以前から構想していた、世界の朝ごはんをテーマにしたカフェレストランを実現するように動き出しました」
大学時代は建築を見に、よく海外へ出かけたそうだ。そこでヨーロッパの街並みにたたずむ古い建物に影響され、日本人として自国の伝統建築についてもっと知りたいと思ったという。そして、建築史を学べる研究室のあった大学院へと進学。

  

当時、たまたま訪れたという日光で、木村さんは書院造の典型的な日本家屋と出会う。空き家だったその建物を「研究の一環として改修したい」と所有者に直談判。結果的に、この書院造の建物が彼の人生を大きく変えることになった。
木村さんは「建物を国内外の人々が滞在する宿にして、日本の伝統建築の魅力を世界に発信したい」と、起業を決意。両親の反対を押し切って、大学院は中退した。「まあ、なんとかなるとは思っていました」と、その性格は前向きだ。

  

研究者のひたむきさと、クリエイターの大胆な発想。そのふたつの化学反応が、「書院造」や「朝ごはん」という、話題のキーワードを生み出す要因にもなったのだろう。表情や仕草はひょうひょうとしながらも、メガネの奥に光る時代をとらえる目は鋭く確かだ。

  

ヨーロッパで日本の伝統建築の魅力に気づいた

――今日、着ているシャツはどちらのものですか。

 これは中目黒の〈ロロ〉というブランドで、好きでよく着ていますね。ふだんは接客業もやっていることもあって、あまりヘンな格好もできないので、同じシャツの色違いを買うことが多いかな。

――シンプルなものが好きですか。

 そうですね。もともと日本人ってシンプルな世界観を好みますよね。古い日本建築もデザイン性を排除した縦と横の線だけで、その極限の中で自然をうまく採り込んだ感覚に僕はしびれたというか。たとえば無印良品を見ていると、とても日本的な感じがします。色を使わない感覚は、僕がやっている「日光イン」の建物とも相性がいいんです。

――木村さんが日本の伝統建築を研究しようとした理由は。

 大学の頃からヨーロッパなどへ行って、最新の建築を見てまわっていたのですが、その一方で、石畳の街並みには築何百年の古い建物があるわけです。素敵だなと思いました。僕は日本人なので、日本の古い建築はどうだろうと勉強しはじめたのがきっかけです。

――そして、大学院に行くことに。

 当時、研究室に学生は僕ひとりだけでした。そこで日本の伝統建築の歴史やデザインを学びましたね。国立大学だったので、国宝の建物もじっくりと勉強することができて、充実した学生生活でした。

――そこで日本の伝統建築にハマってしまったんですね。

 日本人は「和風」と聞くと古くさいイメージを持つけれど、建築自体をよく見ると、すごいかっこいいんですよね。ヨーロッパよりも自分の国の文化のほうが優れているぞと思っちゃうくらい。

――その頃に日光の書院造と出会ったんですか。

 はい、朽ち果てた書院造の建物と出会って、学生でお金はなかったけど時間はあったし、できる範囲で直そうと。3年くらいかかりました。

――ちょうど進路のことも考えなければいけない時期では。

 26歳くらいで一大決心をして、大学院は中退しました。当時は先生からも怒れたし、教授になると思って学費を出してくれていた親からは勘当されました。

――それでもやりたい道に進みました。

 もともと絵を描くことが好きで、将来はデザインをやりたいと思って、建築の世界を目指したんです。書院造を通して自分が考えていることを表現したいという方向に考えが固まったんですね。すぱっと辞めました。

――宿をやろうと思ったのはなぜですか。

 書院造の家って、もともと人を迎えるための空間という大前提があります。子どもの頃、古い田舎の家に行くと、よく床の間のある部屋には入っちゃいけませんって言われませんでしたか? あれは、庭も部屋もきれいに整えて、大事なお客さんが来たら、庭を見ながら接待するという、外向きの部屋だからです。僕の中では「宿にしてお客さんを迎える」という考えがスムーズにつながりました。

――それまで接客の経験はあったんですか。

 いや、全然ないです。最初の宿泊客がやって来たときは、「いらっしゃいませ」って言うのが恥ずかしくて、1分くらい凍り付きましたから。僕自身は、どこかで失敗しても仕方がないと思ってました。でも、とりあえずやってみようと。莫大な借金を追うわけでもないし。

――設計の仕事も並行してされていますね。

 設計の仕事は頼まれたらやりますが、結局はお客さんの要望を叶える仕事です。「日光イン」は自分が造った空間にたくさんの人が泊まりに来る。設計料はないけど、宿泊料として分割してもらっている感覚です。楽しいし、やりがいがありますよ。これと同じようなことが飲食業でもできるかなと思ったんですね。

――そして、カフェレストランの構想が生まれたと。

 じつは青山の「ワールド・ブレックファスト・オールデイ」の前に、江戸川区小岩のテナント物件の設計をしたんです。2坪ほどしかない極小物件で、立ち食いそば屋だった場所をおしゃれな雰囲気に変えてほしいと知り合いから頼まれました。

――青山の前に下町の小岩というのが面白いですね。

 小岩って人情味があって面白い街です。僕はそこにパリを感じたんですね。パリっておしゃれなイメージがあるけど、じつは人種のるつぼだったりユニークな人が歩いていたりして、ディープな町だと思います。小岩にもそういう感覚あって、この場所でなんかやったら面白いかもって思いました。

――パリと小岩が似た感覚の街だとは意外です。

 パリって大都会だけど、人との距離が近くて、みんながそこを“自分の町”と思って暮らしている。そこにはカフェがあったりして、おじいさんの横で若い人が一緒にサッカーを見ていたりする。建築にとって大きな意味を持つのは、建物そのものではなくて、それを使っている人間の存在なのだと思うんです。

――そこでは何をされたんですか。

 立ち飲みバーを2年間、僕のパートナーが切り盛りしていました。経営的にはそんなに儲からないけど、そこではコミュニティーというものを学びました。僕もたまにお店に立ちました。宿泊業とは違って飲食業独特の触れあいもあり、それなりの自信もついたので、2013年、満を持して青山でカフェレストランをやろうと。

――世界の朝ごはんをテーマにされたのは斬新でした。

 外国人と話すときに食べ物を前にしてだといろいろ話せます。例えば、日本人だったらごはんがあってみそ汁があって、それをだけで日本文化が見えてくるように、その国の朝ごはんからいろいろ見えてくると思ったんですね。食を通せば異文化コミュニケーションというのがやりやすいかなと思って。

――いちばん反響があった国はどこの朝ごはんでしたか。

 朝ごはんには気候とか文化が凝縮されているんだと思います。その国の基礎食みたいなものですよね。これまで15カ国を扱ってきました。どこも面白かったですけど、反響があったのはフィンランドですね。若い人が憧れる国ですしね。

――「朝ごはん」と「書院造の宿」には、なにか共通項はありますか。

 かけ離れているように見えても、じつは僕の中では一緒なんです。なにが一緒かっていうと、「作った人がいない」ってことが。例えばパリの「ポンピドゥー・センター」だと、レンゾ・ピアノという有名な建築家の名前は出てきますが、書院造の建築家って特にいません。朝ごはんも同じです。その地域に長い時間をかけてできたもので、「もっとも理想的なカタチ」として残ったものです。日本人にとって、みそ汁とごはんが一番リーズナブルでおいしいし、書院造もエアコンがない時代に、快適でパーファクトな空間だったんだと思います。「書院造」と「朝ごはん」って、まったく違うようで根は同じ発想から生まれて出来上がってきたものです。

――もっと多角的な視点が必要ですね。

 長い時間をかけてカタチ作られたものって、世の中にまだたくさんとあります。その中から「書院造」と「朝ごはん」だけを取り上げてもあまりこちらの意志が世の中に伝わらない。もっとダイレクトに世の中に伝えるべきだと思っています。

――今後の展開がすごく楽しみです。

 古い要素と未来の要素がうまく融合できればいいなあと思います。過去を把握する人がちゃんといて、そのうえで未来を築いたほうがいいに決まっているのに、いつも日本は未来しか見ていない。今はまだ公にはできないけど、そんなことを考えながら、次のことを展開を構想しています。
(文 宮下哲)

    ◇

木村 顕(きむら・あきら)

一級建築士。1977年北海道生まれ。東京藝術大学大学院 美術研究科 修士課程修了。日本式の住宅に滞在すること自体をテーマにした宿泊施設「日光イン」、世界の朝食を提供する「WORLD BREAKFAST ALLDAY」などを運営するNIKKO DESIGN代表。
NIKKO DESIGN 公式サイト:http://www.nikko-design.jp/

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